天田財団_助成研究成果報告書2023_2
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に増加したためと考えられる. 光学顕微鏡画像から表面が粗い領域すなわち,再潤滑領域の面積を見積もった.潤滑剤Aでは圧痕の後方への放射状の浸み出しが観察され,その面積はロール周速2.6mm/sのときは1.31mm2,ロール周速15.3mm/sのときは0.47mm2,ロール周速91.9mm/sのときは0.15mm2とロール周速が速いほど面積は小さくなった.潤滑剤Bではロール周速2.6mm/sのときのみに後方への浸み出しが観察された.潤滑剤Cではロール周速2.6mm/sのときは浸み出しが観察されなかったが,ロール周速15.3mm/sのときは前方へせん断変形を受けたような跡が観察された.浸み出した潤滑剤の面積が浸み出した潤滑剤の量と比例すると仮定すると,圧痕後方へ浸み出す潤滑剤の量はロール周速が遅いほど,潤滑剤粘度が低いほど増加し,前方への浸み出しはロール周速が速いほど,潤滑剤の粘度が高いほど増加することを意味している. ■■■考■察■圧延の再潤滑機構を引抜きの先行研究1)-4)と比較しつつ考察する.その模式図を図6に示す.引抜きでは低粘度・低速の条件では潤滑剤が圧痕の前方へ,高粘度・高速の条件では後方へ浸み出すことが観察されている.左図の塗りつぶされた部分は,潤滑剤が浸みだした領域を模式的に示している.引抜きでは一般的に面圧が出口に向かうにつれ小さくなることから,前方への浸み出しは潤滑剤の静水圧が上昇し,面圧の低い圧痕の前方側から潤滑剤が浸み出したためであると考察されている.一方,後方への浸み出しは,被加工材と工具の相対速度によるものであり,圧痕に補足された潤滑剤にせん断応力が作用した結果,後方へ浸み出したと考えられている. 図6 (a)引抜き3)と(b)圧延における再潤滑機構の説明図. 本研究で,潤滑剤の動粘度とロール周速を変更したときに観察された浸み出し方向は,引抜きで観察されたものと逆方向であり,潤滑剤の浸み出しはいずれもロールバイト入口と中立点の間の後進域(被加工材の移動速度がロールより遅い領域)で観察された.後進域では面圧は中立点に向かって大きくなり,ロール周速の方が材料の速度よりも速く,引抜きと逆の相対速度関係になっている.このことから,圧延における後方への浸み出しは潤滑剤の静水圧によるもの(MPHSL)であり,前方への浸み出しは潤滑剤の粘性に依存する動的な効果によるもの(MPHDL)であると推測される.そして,定性的ではあるが,引抜きと圧延における再潤滑機構を統一的に理解することが可能となる. ■■■結■言■圧延の再潤滑機構を解明するために,天動説型圧延機を用いて圧延界面のその場観察を行い,以下の知見を得た. 1) ロール周速15.3mm/sのとき,低粘度の潤滑剤(潤滑剤A)では30%の位置で後方に潤滑剤が浸み出し,高粘度の潤滑剤(潤滑剤C)では27%の位置で前方に潤滑剤が浸み出すことが観察された.すなわち再潤滑はいずれの条件でも後進域で生じた. 2) 潤滑剤が後方に浸み出す場合,より低粘度であるほど,あるいは低速圧延であるほど浸み出しは顕著であった. 3) 高粘度の潤滑剤(潤滑剤C)を用いたとき,ロール周速15.3mm/sのときは潤滑剤の前方への浸み出しが観察されたが,低速のロール周速2.6mm/sの場合には前方への浸み出しは観察されなかった. − 225 −

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