天田財団_助成研究成果報告書2023_2
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キーワード:生体用金属材料,熱間加工,耐食性,加工組織 1.研究の目的と背景 生体用Co−Cr−Mo合金は、耐食性や耐摩耗性に優れることから、人工股関節等の整形外科用インプラントに広く使用されている。また、近年では側彎症をはじめとする脊椎疾患の治療に用いる脊椎固定器具への応用も進んでおり、生体用金属材料としての当該合金の重要性はますます増加している。しかしながら、既存製品の多くは海外から輸入されたもので、課題も多い。例えば、脊椎固定器具へ膿瘍では細い径(~6 mm)のロッド材を作製する必要があり、難加工材である生体用Co−Cr−Mo合金の適用は必ずしも容易ではない。また、小柄な日本人の体型に合わせてさらなる細径化が期待されているが、既存製品に多く用いられているチタン合金ロッドは疲労強度の観点から課題があった。したがって、患者の負担を最小限にするため、ロッド材の細径化や長期間使用可能な耐久性に優れたインプラントの開発が臨床の現場から強く求められている。 一方、当該合金においては、2012年の欧米の大手医療機器メーカーが製造した本合金を使用した人工股関節の大規模リコールが記憶に新しい。これは、テーパー加工されたモジュラーネック部の腐食に起因しており、生体用Co−Cr−Mo合金の製品設計において耐食性が臨床上の問題として顕在化した例の一つである。また、生体用Co−Cr−Mo合金の高強度化には炭化物析出が主に利用され、実用に供されてきた。しかしながら、最近の研究ではC添加により延性や耐食性が大きく低下することが明らかになっており1)、新たな知見に基づいた材料開発が必要不可欠である。 このような背景から、我々は生体用Co−Cr−Mo合金の加工熱処理による機械的特性の改善について取り組んできた。これまでの研究では、熱間加工における動的再結晶の発現と結晶粒微細化、積層欠陥の導入による高強度化を明らかにし、熱間鍛造材のASTM規格値の約2倍となる著しい高強度と高延性を同時に実現することに成功した2)。また、2015年度に採択された天田財団一般研究開発助成(研究代表者:森真奈美)では、熱間加工における動的変態の発現を見出し、熱間圧縮試験により結晶粒径1 μm以下の「ナノε組織」の形成と圧縮試験前の約2倍となる高硬度を初めて示した。しかしながら、ステンレス鋼では塑性加工により耐食性が著しく低下する仙台高等専門学校■総合工学科■( ■■■年度■一般研究開発助成■■■■ ■■■■■ ■■ ) 准教授■森■真奈美■ことが報告されている3)。したがって、整形外科インプラントへの高強度材の適用については、熱間加工等により導入されたひずみや組織変化が耐食性に及ぼす影響を明らかにする必要がある。しかしながら、当該合金の耐食性や生体適合性に及ぼす組織の影響に関する研究は少なく、系統的な理解が得られていない。 そこで本研究では、生体用Co−Cr−Mo合金の耐食性に及ぼす塑性加工の影響について調査した。まず、種々の加工条件にて生体用Co−Cr−Mo合金の熱間加工を行い、得られた試料に対して、結晶粒径、転位密度、集合組織、構成相等の観点から加工組織の定量的な評価を行った。その後、加工組織の定量的な解析を行った試料に対して、耐食性の評価を行い、組織解析結果との対応関係を調査することで、腐食挙動に及ぼす加工組織の影響を明らかにするとともに、塑性加工プロセスの最適化を目的とした。 2.実験方法 ■ ・■■試料作製■■本研究で用いた合金は人工股関節材料として用いられているASTM F1537規格に準拠したCo−28Cr−6Mo (mass%)合金である。高周波誘導溶解にて100 kgインゴットを溶製した。その後、1230 ℃にて3時間均質化熱処理を行った後、熱間鍛造し、1230 ℃で1時間の熱処理を行った。その後、多パス熱間圧延にて断面減少率96%となるまで加工した(as-rolled材)。比較のため多パス熱間圧延した試料を1150 ℃にて30分熱処理を行った(annealed材)。 ■ ・ ■組織観察■走査型電子顕微鏡(SEM)および電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて組織観察を行い、結晶粒径および相構成を調査した。また、X線回折(XRD)を用いて各試料のラインプロファイルを取得し、Convolutional multiple whole-profile(CMWP)法を用いて転位密度などの組織定量解析を行った。  ・■■機械的特性の評価■ワイヤ放電加工機にて、標点間距離10.5 mm、幅2.0 mm、厚さ1.0 mmの引張試験片形状に切り出し、初期ひずみ速度1.6 × 10−4 s−1の条件で室温引張試験を行った。− 99 − 塑性加工を用いて高強度化した生体用■■−■■−■■合金における■耐食性に及ぼす加工組織の影響■

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