図5に100倍の対物レンズを用いてフェムト秒レーザーを照射した後,FITC-デキストランをゲル表面に滴下する前後の共焦点蛍光像および透過像を示す.図5(a)の透過像にはレーザー集光後アガロースゲル表面に,アブレーションによって生じた直径1μm程度の小孔が観察される.一方で蛍光像にはアブレーションで生じた小孔の位置に図5フェムト秒レーザー照射後,2 μMのFITC-デキストランを滴下前(a)および滴下後(b)の共焦点蛍光像と透過像均値ではレーザー照射前は平均ヤング率が47.4±3.68kPaであったのに対し照射後では45±4.08kPaとなった.このようにレーザーパルス照射後にアガロースゲルの顕著なヤング率変化は生じなかった.またパルスエネルギーを500 nJ/pulseとした場合でも平均ヤング率の減少量に大きな差は見られなかった.しかしながら複数回の実験において平均ヤング率が5%程度減少する傾向が得られている.同様の実験を3%コラーゲンゲルで行った場合,レーザー照射前は294±33.0 kPaであった平均ヤング率が260±32.7 kPaへと10%程度減少した.以上の結果より実験の誤差は大きいもののフェムト秒レーザー照射に伴ってハイドロゲルのヤング率は減少する傾向にあると言える.これらの実験でフォースカーブと同時に測定した試料の高さ情報からはレーザー照射によって試料の表面形状が変化する様子は観察されなかったことから,先端球の接触状態はレーザー照射後に変化していない.従って,レーザー照射に伴うアガロースゲル及びコラーゲンゲルに見られた5%から10%程度のヤング率減少は,衝撃波がハイドロゲル中を伝搬3),またはキャビテーションバブルの膨張に伴う高速変形によって,ハイドロゲルのドメイン構造やネットワーク構造が変化したことに起因すると考えられる.しかしながら,ヤング率の測定値はカンチレバーの先端形状,フォースカーブ測定における押し込み量のようなパラメーターなど多くの要素にも依存するため,定量的な評価を行うことが難しい.またハイドロゲルは粘弾性体としての特性が強いため,ヤング率以外にその機械特性を評価していくことが必要となる.その他レーザー照射条件に関してもパルスエネルギーやパルス数を変え今後の課題となる.■・ フェムト秒レーザー照射に伴うアガロースゲルの分子透過性変化前節の結果より,フェムト秒レーザー照射に伴う集光点での熱弾性応力の上昇に起因する機械的作用によって,レーザー集光点近傍でハイドロゲルの構造が変化している可能性が示された.そこでそのような構造変化の指標として分子透過性を測定した.何も観測されないことから,アガロースゲルによる光散乱や光化学反応による発光性分子の生成などが蛍光像に影響しないことがわかる.次に2 μMのFITC-デキストラン溶液をアガロースゲル上に滴下して,滴下前と同じ条件で共焦点蛍光観察を行うと,図5(b)の蛍光像のように液中のFITCからの蛍光によって像全体の輝度が上昇していることがわかる.さらにレーザー集光点近傍ではゲル表面に生じた小孔のサイズよりも大きい直径10μm程度の領域で蛍光強度の顕著な増加が観測された.今回使用した1%アガロースゲルはゲル電気泳動などでも標準的に使用される濃度であり,2MDaの大きさを有する高分子は通常ゲルの中には拡散しない.またゲル表面に窪みなどは透過像では全く観察されないことに加え,前節のAFM測定でもレーザー集光点近傍の領域でアガロースゲル表面が窪むような挙動が観測されていないことから,蛍光強度が増加した領域で生じた凹みにFITC-デキストランが入っているとは考えにくい.したがって,蛍光強度の増加はフェムト秒レーザー照射に伴う熱弾性応力によってアガロースゲルのネットワーク構造が破壊され,2MDaの高分子の透過性が増加したことに起因すると考えられる.蛍光強度が周辺と比べてより大きいのは,ゲル中の分子透過性が上昇した部分では分子の拡散速度が溶液中より低下することで局所的にFITC-デキストランの濃度が増加したためと考えられる.さらにFITC-デキストランがレーザー集光点近傍に保持されるかどうかを確認するために,FITC-デキストラン溶液を滴下後に再び蛍光分子を含まない溶液へと置換して蛍光像を取得したところ,集光点近傍で輝度の高い領域は消失したため,今回使用した2MDa程度の分子サイズの分子はゲル内に強く保持されず拡散速度は早いと考えられる.− 423 −
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