助成研究成果報告書Vol.35
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2.実験方法 2.1中炭素鋼ラスマルテンサイトの単一パケット構造 1.研究の目的と背景 キーワード:ラスマルテンサイト,マイクロ引張試験,力学特性 持続可能で安心安全な社会を実現するためには構造物の高強度化および長寿命化の達成が急務である.特に輸送機器を取り巻く環境においては,環境改善のための燃費向上が強く求められており,構造材料の高強度化が進められてきた.先進鉄鋼材料(AHSS:Advanced high strength steel)は優れた強度と延性のバランスにより車体軽量化と衝突安全性の両立が期待されている1).先進鉄鋼材料は,フェライト,マルテンサイト,ベイナイト,残留オーステナイト相により構成され,マクロ的力学特性はこれらの構成組織における力学特性を強く反映する. ラスマルテンサイトは炭素量0.6 mass%以下の鋼においてオーステナイトから急冷することによって得られる組織であり,炭素量によって多様な強度レベルを示すことから強度を担う主要な組織の一つとして構造材料に幅広く使用されている.これまでのラスマルテンサイトの組織形態に関連する先行研究によれば,ラスマルテンサイト(M)は母相のオーステナイト(A)からKurdjumov-Sachsの結晶方位関係(111)A∕∕(011)M [1�01]A∕∕[1�1�1]Mをもって形ナイト粒内には,{111}A晶へき面に平行な面を有するラス成されることが知られている2).また,一つの旧オーステの集合体であるパケットが形成され,パケットは結晶方位がほぼ同じラスの集団であるブロックから構成される.さらに,ブロックの内部には相対方位差が約10°のラスの集団から成るサブブロックが形成されている3).このようにラスマルテンサイトは階層的な微視組織により構成され,またそれらは炭素量によって少し異なる組織学的特徴を示すため4),力学特性に及ぼす構成組織要素の影響を知る必要がある. 近年,マイクロ/ナノ材料試験技術の飛躍的な発展は,材料の微小領域における力学特性の評価に大いに役立てられている.ところが、これまでの先行研究では,対象とする組織要素が微小試験片の採取に十分な大きさである必要があったため,組織形態が容易に認識できる低炭素鋼ラスマルテンサイトが主に対象とされてきた.しかし,実用的に使用されるラスマルテンサイトは公称炭素量よりも高い炭素量により形成されている5)。先進鉄鋼材料の強度特性はマルテンサイト強度に強く依存するため、低炭素量に加えて高い炭素量により形成されるラスマルテンサ熊本大学 先端科学研究部 (2019年度 奨励研究助成(若手研究者枠)AF-2019045-C2) 助教 郭 光植 イトの微視組織要素における力学特性を理解することも重要である.さらに,成型加工時においては,加工により導入されるひずみ量によって組織形態が変化するため,ラスマルテンサイトの変形組織における力学応答を知ることも重要であるが、塑性加工を施したマルテンサイトの構成組織における力学特性を調査した研究例はほとんど見ない. 本研究では,中炭素鋼ラスマルテンサイトを対象に,一つのパケットからマイクロスケールの微小試験片を切り出し,引張試験を行うことで単一パケット構造体の力学特性を系統的に調査した.さらに,大変形を受けた低炭素鋼ラスマルテンサイトの変形組織から採取した微小試験片を用いて引張試験を実施し,ひずみを受けた下部組織が力学特性に及ぼす影響を調査した. 体のマイクロ引張試験 本研究では中炭素鋼ラスマルテンサイトのパケット構造体の力学特性を評価するために含有炭素量が0.33C,0.43C,0.55C(in mass%)鋼を用いた(以後,それぞれ33C,43C,55Cと称す).これらの化学組成を表1に示す.これらを大気中において1323 Kで900 s保持後,氷食塩水焼入れを施すことで完全ラスマルテンサイト組織を得た.これを10 mm×10 mm×1 mmの寸法に切り出し,エメリー研磨により厚さが約20 μmになるように調整した.その後,コロイダルシリカペーストを用いたバフ研磨により表面を鏡面に仕上げた.電解放出型走査電子顕微鏡を用いて,加速電圧20 kV,ステップサイズ0.3 μmで走査し,電子線後方散乱回折(EBSD)解析法により結晶方位を同定した.集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いて試験片の平行部寸法が50 μm×20 μm×~20 μmのマイクロ引張試験片を作製した.この際,荷重軸に対する晶へき面方位が45°(A試験片)と平行(B試験片)な2種類の試験片を作製した.引張試験は室温,大気中にて変位速度0.1 μm s-1で行い,引張試験中の変形様子は光学顕微鏡を用いて観察した. − 395 −マイクロ引張試験による大変形を受けたラスマルテンサイトの力学特性評価

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