表1 用いた試料の化学組成(mass%).1.研究の目的と背景キーワード:Al-Zn-Mg-Cu合金,晶出第二相粒子,ステップ溶体化処理カーボンニュートラルの実現に向けて、航空機、鉄道車両や自動車などの輸送機器において、より一層の二酸化炭素排出量の削減が求められている。この対策として、輸送機器の軽量化による燃費向上が進められており、構造材料として使用される金属材料の高強度・高延性化に関する研究が盛んに行われている。比強度に優れるアルミニウム合金は航空機や鉄道車両に採用されてきた実績があり、自動車パネル材への適用も期待されているが、まだ広く採用されるには至っていない。この理由の一つとして、現在用いられている冷延鋼板と比べて、アルミニウム合金はまだ強度や加工性に劣ることが挙げられる。そのため、現在実用されているアルミニウム合金を超える高強度かつ高延性なアルミニウム合金を開発できれば、従来の航空機や鉄道車両のみならず、自動車分野への適用拡大も期待でき、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献できる。アルミニウム合金展伸材では、化学成分、塑性加工および熱処理を組み合わせて、力学特性を制御する。代表的な高強度アルミニウム合金であるAl-Zn-Mg-Cu系合金は溶体化処理後に人工時効処理を施し、ナノメートルサイズの微細な析出物を形成させることで高強度化する。本合金系では、添加元素量を増大させると、析出物の数密度が増加し、高強度化が図れることが知られている。実用アルミニウム合金には、不純物としてFeやSiが含まれているが、これらは鋳造時には晶出物を形成する。これらの元素はアルミニウムに対する固溶限が小さいため、それらの第二相粒子は加工熱処理工程で分断され、粒子サイズは形成時と比べて小さくなるものの、最終熱処理後も数から10m程度の粗大な粒子として材料中に残存し、応力が負荷された場合には破壊の起点となり、延性や靭性の劣化を招く。また、合金の高強度化に寄与する元素(Zn, Mg, Cu)も晶出物を形成するため、最終熱処理工程でこれらの元素を含む粒子を固溶させる必要がある。添加元素量の多いAl-Zn-Mg-Cu合金では、溶体化処理後も強化に寄与する元素を含んだ晶出第二相粒子が残存していることがある1)。すなわち、晶出第二相粒子の分布状態を制御することで、アルミニウム合金の力学特性を改善する余地がまだ残されていると考える。本研究では通常の溶体化処理後も残存する晶出第二相新居浜工業高等専門学校環境材料工学科( ■■■年度奨励研究助成(若手研究者枠)■■■ ■■■■■ ■■ )講師真中俊明2.実験方法 ・■供試材本研究で用いた試料の化学組成を表1に示す。強化に寄与する元素の内、Zn量を変化させ、MgとCuは同程度の量に調整されている。また、不純物元素として、FeとSiを含んでいる。以降では、それぞれ”4.5Zn合金”、”8Zn合金”と呼称する。試料は厚さ15mmの冷間圧延板材として受け入れた。まず、受け入れ材について、L-ST面を鏡面仕上げ後に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、第二相粒子の分布状態を観察した例を図1に示す。大きさの異なる白色粒子が多数観察され、それらについて、SEMに付属のエネルギー分型X線分析装置により、化学組成を分析すると、図1(b)に示すように、Al7FeCu2相、MgZn2相、Al2CuMg相であると推定された。これらの内、MgZn2相、Al2CuMg相について、溶体化処理により母相に固溶させることが可能であるが、それぞれ融点は478℃、508℃と報告されている。通常Al-Zn-Mg-Cu系合金の溶体化処理は480℃以下で行われる。Al中でMgとZnの拡散速度は速く、MgZn2相は短時間で固溶するが、Al2CuMg相の一部は未固溶の状態となる。高温で保持すれば、拡散速度粒子の分布状態を制御することで、アルミニウム合金の力学特性を改善することを目的とする。これを達成するために、ステップ溶体化処理2)を行う。ステップ溶体化処理とは最終溶体化温度まで直接昇温するのではなく、段階的に昇温していくことで、共晶融解を生じさせることなく、通常の条件よりも高温で溶体化処理を行う方法である。これにより、溶質元素量を増やし、時効硬化による強化量の増大、さらに破壊の起点となる粒子のサイズおよび量を減少させることで延性の向上を狙う。が速くなり固溶量も増えるが、急速に高温まで昇温すると共晶融解が生じる恐れがある。本研究では、共晶融解を生じさせることなく、段階的に昇温することで溶体化温度を高めた。− 380 −晶出第二相粒子の分布状態制御によるアルミニウム合金の力学特性改善
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