1.研究の目的と背景キーワード:CORE-SHELL構造チタン粉末,選択的レーザ溶融法,窒素固溶強化軽量金属の一つであるチタン(Ti)は,高い比強度を有しており,また耐腐食性や生体親和性などに優れることから熱交換器や化学プラント,淡水化プラントのような産業機械,インプラントや人工関節のような医療機器など,幅広い産業分野にて活用されている1-5).特に,航空機用部材や医療機器などへのチタン材の適用に際しては合金化による高強度化が図られている.チタン合金は,その組織構造によって耐クリープ性能に優れるα型合金,低剛性を発現するβ型合金,強度特性に優れるα+β型合金の3種類に分類される2),3).なかでも,α+β型に属するTi-6Al-4V(Ti-64)合金(ASTM Grade 5)は強度と靭性を兼ね揃え,溶接性や熱間加工性も比較的良好な汎用合金である2),3).他にTi-5.8Al-4Sn-3.5Zr-0.7Nb-0.5Mo-0.35Si-0.06C(Ti-834)やTi-6Al-2Sn-4Zr-6Mo(Ti-6246)などのチタン合金が航空機用部材に採用されている.このようにチタンの高強度化には,バナジウム(V)やジルコニウム(Zr),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb)といった高価なレアメタルの添加が必須とされている2),6),7).一方,バナジウムとジルコニウムの需要・供給は年々増加しており,今後も需要の増加が予測されている8),9).しかしながら,供給予測に関しては,今後の採掘量の拡大を加味してもその需要予測量に対して不足しており,更なる価格高騰が懸念される.その結果,レアメタルを含むチタン合金の価格上昇を誘発し,チタン製品の利用が限られる可能性がある.このような問題を克服する合金設計として,ユビキタス元素の活用が提案されている1),10),11).ユビキタス元素とは,窒素,酸素,水素,炭素,シリコン,鉄のように資源的に豊富で普遍に存在し,安定供給が可能で廉価な元素を指す.但し,溶解鋳造法で作製したチタン(Ti)材における窒素成分は,凝固過程においてα-Ti結晶粒界に濃化・偏析して延性低下を誘発する.そのため,その含有量はJIS12)やASTM13)において0.03 wt.%以下に管理されている.他方,これまでに本研究者らは,粉末冶金法(固相焼結法)を用いて比較的速い冷却速度条件下でTi焼結材を作製することで窒素成分をα-Ti結晶内に完全固溶する新たな製法を確立した.その結果,上述したJIS12)やASTM13)の規格上限値を越える窒素を含む場合でも伸び値が20%を越え,かつ1000MPa以上の引張強さを有する純チタン焼結材の創製に成功しており14),Ti-64汎用合金( ■■■年度一般研究開発助成■■■ ■■■ ■■■■ )大阪大学接合科学研究所教授近藤勝義の力学特性を凌駕する高強度化を実現した.また近年,金属粉末に対してレーザや電子ビームなどを照射して溶融・凝固現象を促して複雑形状部材を作製できる金属積層造形法(Additive Manufacturing, AM)が国内外で注目されている.本製法では,高エネルギー密度の熱源を金属粉末に対して局所的に付与するため,急速溶融・凝固冷却現象を伴う.本研究者らはその点に着目し,上述した粉末冶金法によるTi結晶内への窒素原子の固溶現象をAM法に展開した.具体的には,選択的レーザ溶融法(Selective Laser Melting, SLM)を用いて,窒素供給源となるTiN粒子とTi粉末からなるTi/TiN混合粉末を出発原料として窒素固溶Ti積層造形体を試作した.SLM法では,図1に示すように原料粉末を造形ステージ上にリコータで供給し,所定の厚さのもとで粉末をパウダーベッドに均一に敷き詰める際,リコータブレードから原料粉末に対してせん断力が作用する.これによりTi/TiN混合粉末においてTi粉末表面に機械的に結合したTiN粒子が脱落し,TiN粒子の分離・偏析現象によって造形体内にてTi結晶粒界近傍に窒素成分が濃化し,延性低下が生じた.本実験使用図1.本実験で使用したSLM装置におけるチタン粉末の粉末積層造形過程の一例(Ti-64合金粉末を用いた実験例)そこで,TiN粒子を用いることなく,Ti表面に窒化物(Ti2N/TiN)皮膜を形成したCORE-SHELL構造Ti-N粉末15)を開発し,これを出発原料として上記の課題解決を目指す.特に,窒素原子が均質に固溶するレーザ積層造形体が作製でき,その強化機構を材料組織学的観点から解明できると考えて本研究課題の提案に至った.その際,CORE-SHELL構造Ti-N粉末と純Ti粉末との混合比率を調整することで窒素含有量が異なる積層造形体が作製でき,結晶組織解析と力学特性評価を通じて強化機構を定装置− 308 −■■■■■■■■■■構造粉末を用いたレーザ積層造形チタン材の強化機構の解明
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