助成研究成果報告書Vol.35
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1.研究の目的と背景2.プラズマ閉じ込め層キーワード:レーザピーニング,音響インピーダンス,プラズマ閉じ込め層レーザによる金属材料加工の最大の特長は、優れた制御性と非接触処理が可能なことにある。高輝度パルスレーザ照射によるレーザ誘起衝撃波を利用した金属加工は「レーザピーニング」と呼ばれる表面処理技術を生み出し、熱加工では実現できない金属疲労の改善や応力腐食割れの防止策として利用されている1-3)。レーザピーニングの原理は以下の通りである。水中の金属試料に対してパルスレーザをGW/cm2を超えるピークパワーで集光照射すると、試料表面にアブレーションプラズマが発生する。金属試料の周囲に存在する水がプラズマの膨張を抑制することによってプラズマ噴出圧力はGPaを超え、その結果、衝撃波が発生する。衝撃波の圧力が金属試料の降伏限界を超えると、塑性変形が生じ、弾性拘束によって試料表層に圧縮残留応力層が形成される。また、試料表層の硬度は、同時に、加工硬化によって上昇する。圧縮残留応力の増大は金属疲労の改善や応力腐食割れの進展を防止し、表面硬度の上昇は表面の亀裂、応力腐食割れの発生を防止する。レーザピーニングは1990年代には論文化されていた古典的な技術である。しかしながら、現状、レーザピーニングの適用範囲は、原子炉シュラウドや航空機部品等の信頼性が高度に要求される特殊応用に留まっており、一般産業には広がっていない。レーザピーニングは高ピークパワーのレーザを使用するため、レーザとプラズマの相互作用、衝撃波発生等、作用機序が複雑である。レーザピーニングの一般産業への普及を進めるには各種金属材料におけるデータベース蓄積およびプロセスの高エネルギー利用効率化が必要である。本研究は、プラズマの閉じ込め能力をプラズマ閉じ込め層の音響インピーダンス制御によって向上させ、プロセスの高エネルギー利用効率化に寄与するものである。レーザピーニングが他のレーザ加工技術と圧倒的に異なる点は、試料の表面にレーザプラズマの閉じ込め層を設けることにある。プラズマ閉じ込め層は、アブレーションプラズマの噴出を抑制して、レーザ誘起衝撃波の振幅を増大させる。プラズマ噴出の抑制に直接寄与する物理量はプラズマ閉じ込め媒質の音速と密度の積、つまり音響インピ近畿大学理工学部電気電子通信工学科(2019年度一般研究開発助成AF-2019210-B2)教授中野人志ーダンスである。音響インピーダンスZCは次式よって示される3)。ここでdLおよびvSはそれぞれプラズマ閉じ込め層として用いる媒質の密度および音速である。音響インピーダンスZCとレーザプラズマ圧力Pの関係は以下のように表される3)。ここでαは相互作用効率、Iはレーザー照射強度である。(2)式より、効果的なレーザピーニングには、高い音響インピーダンスのプラズマ閉じ込め媒質が望ましいことが分かる。レーザピーニングのプラズマ閉じ込め媒質としては、レーザ光の透過率が高く、安価に手に入ることから、通常、水が使用されている。大気中に比べ、数十倍のプラズマ圧力が得られるとされている1)。プラズマ閉じ込め媒質はレーザ波長に対して透過率が高く、化学的に安定である(金属材料と化学反応を起こさない)、引火性や爆発性がなくレーザ光を照射しても安全である等の要件を満たす必要がある。また、高出力レーザを水中に照射すると気泡(キャビテーションバブル)が発生するが、このキャビテーションバブルの崩壊によって発生する圧力が金属を塑性変形させるのに十分な大きさであることが近年の研究で明らかにされている4)。本研究では、レーザピーニングの高エネルギー利用効率化を目的として、プラズマ閉じ込め媒質の音響インピーダンスを変化させて金属材料へのレーザピーニング処理実験を行った。表面硬度、圧縮残留応力、および高速度カメラによるプラズマ閉じ込め層の観測結果から、レーザピーニングに適切なプラズマ閉じ込め層の条件を考察した。プラズマ閉じ込め媒質として、水およびグリセリン水溶液を用い、水の温度変化およびグリセリン水溶液の濃度変化によって音響インピーダンスを制御した。(1)(2)− 303 −プラズマ閉じ込め層の音響インピーダンス制御によるレーザピーニング効果向上に関する研究

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