図1 過冷却液体シリコンの急冷機構 キーワード:レーザー加熱,過冷却液体,急冷凝固 1.研究の目的と背景 ( ■■■年度■一般研究開発助成■■■■ ■■■ ■■■■ ) 1980年代にTurnbullらは、液体シリコンからアモルファスシリコンを作製する新しい方法、すなわち、液体シリコン(融点1683K)の過冷却状態を利用する方法を提案した。Turnbullらは熱力学的考察をもとに、1440K以下にある過冷却液体シリコンを用いれば、101~2 K/sec程度の徐冷でバルクアモルファスシリコンが形成されると予測した4,5)。液体シリコンを1440K以下まで過冷させることはフラックス法や無容器法を用いて実現できるので、Turnbullの予測が正しければ、液体シリコンからバルクアモルファアモルファス金属・合金材料の多くは液体急冷によって作製され、バルク状の材料が得られる。アモルファスシリコンについても、液体急冷法を用いて薄膜以外の形状の材料が得られれば、アモルファスシリコンの用途がさらに広がる。これまで液体急冷法を用いてアモルファスシリコンを作製する試みが行われてきたが、成功例は結晶シリコン薄膜へのパルスレーザ照射や1,2)、直径20nmの微小液滴シリコンからのアモルファス形成など3)、特殊な条件下に限定される。液体急冷法を用いたアモルファスシリコンの作製が困難な理由は、アモルファスシリコンと液体シリコンの構造と物性が異なることにある。アモルファスシリコンは常圧下において4配位の半導体であるが、液体シリコンは6配位の金属である。また、アモルファスシリコンの密度は液体シリコンより10%以上も小さい。このために、液体シリコンを急冷しても多くの場合結晶化が起こり、アモルファスシリコンの形成には結びつかない。 スシリコンを作製できることになる。しかしその後、日本、米国、ドイツで行われた実験ではアモルファスシリコンの形成が確認されず、Turnbullの予測について懐疑的な見方が主流となっていた。 我々はこれまで、高温融体の物性、特に液体シリコンの物性に興味を持ち研究を進めてきた。よく知られているように固体シリコンは配位数4の半導体であるが、融解するとその性質は一変し、配位数6の自由電子的な金属になる。我々が液体シリコンの結合状態を詳細に調べたところ、その結合状態は、金属結合とわずかに共有結合が共存するという特異なものであることが判明した6)。さらに最近の研究では、過冷却液体シリコンの温度が1440K以下になると共有結合の割合が増加することを見出した。アモルファスシリコンは半導体である。したがって、共有結合の割合東北大学■金属材料研究所■准教授■岡田■純平■の増加は、「1440K以下では液体シリコンからアモルファスシリコンが生成する」というTurnbullの予測をサポートする。このことを手掛かりにして、我々は過冷却状態にある液体シリコンの急冷実験に取り組み、アモルファスシリコンを作ることに成功した7)。これまで懐疑的に考えられてきた「過冷却液体シリコンからアモルファスシリコンが形成される」ことを世界で初めて実証した重要な結果である。■我々が行った実験は以下の通りである。図1は、過冷却液体シリコンの急冷装置の概念図を示す。この装置は、静電浮遊機構とアンビル型急冷機構(冷却速度104~5 K/sec)を内蔵している。静電浮遊法は帯電した試料に静電場をかけ重力と釣り合わせることによって、試料を2枚の電極間の任意の位置に浮遊させる手法である。標準的な電極間距離は約10 mm 、試料サイズは約 2 mm である。紫外線の照射により試料を正に帯電させる。電極間には10~20kVの電圧が印加され、CCD位置検出器を用いて試料位置を測定する。測定した位置情報を用いてPID 制御で電極間の電圧を調整し、試料位置を安定化させる。試料位置は±10μm以内の精度で制御できる。試料温度は放射温度計を用いて測定する。装置内は10-5Paの真空雰囲気に保たれている。浮遊試料に高出力レーザを照射する事により、試料を融解する。試料保持容器を用いないので、容器に起因する不均質核生成の抑制が可能となり、深い過冷却状態を実現できる。静電浮遊法は、帯電する試料であれば浮遊保持できるので、金属、半導体、絶縁体を問わず浮遊できる。− 300 − ガス浮遊法とレーザプロセッシングを 用いた急冷凝固装置の開発
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