助成研究成果報告書Vol.35
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4.微細穴あけ加工試験 5.まとめ 図 5.入射パルスエネルギーに応じて格子幅およびスリット幅が変化する原理.(a)本光学系におけるレーザー入射条件を単純化したモデル.(b)試料表面上のレーザーフルーエンス𝑭𝑭と材料のしきい値フルーエンス𝑭𝑭𝒕𝒕𝒕𝒕の関係.横軸は干渉縞に垂直な面上の1方向を示す. 2本のフェムト秒レーザーによる干渉加工実験では,レーザー波長520 nmに対して1/5の大きさの微細構造を作製することができた.これは,超短パルスレーザーを使用したレーザー加工特有の非線形性によるものである.透明材料に超短パルスレーザーを強く集光して照射すると,100 nm以下の高い空間分解能の加工が実現できるように,非透明材料についても,それがナノ薄膜であれば非常に高い加工分解能を達成できることが示唆される. 薄膜レーザー加工で達成可能な空間分解能を調査するために,波長1040 nmのフェムト秒レーザー1本をNA=0.95の光学顕微鏡用対物レンズで集光する加工系を用意して,微小穴あけ加工の試験を行った.レーザー光は対物レンズ瞳の大きさに等しいフラットトップな強度分布で対物レンズに入射する.焦点におけるレーザーのスポット径は回折限界に近い~500 nmであった.このような高NA下の集光では,スポット形状が偏光の向きに依存することが知られているため,入射レーザーは円偏光にして使用した. レーザーの入射パルスエネルギーを変えながら厚さ10 nmのSiN膜に加工を行った結果を図6に示す.入射レーザーのピークフルーエンスが加工のしきい値に最も近い条件で,直径約100 nmの微細穴あけ加工を達成した.この直径はレーザー波長の実に1/10の大きさであり,回折限界のスポット径よりもさらに小さな加工穴を実現することが出来た.照射レーザーのスポット径は波長に比例するため,本結果を単純に外挿すると,倍波の波長520 nmのフェムト秒レーザーを使用すれば52 nmの穴あけ加工が,さらに倍波をとって260 nmのフェムト秒レーザーとすれば,26 nmというFIBに迫る微細穴あけ加工が実現すると期待できる. もちろん,実際にはレーザー波長が短くなると多光子励起過程が生じなくなるから,上記のような単純な外挿は適用できないだろう.一方で,先端の光学研究では,対物レンズに入射するレーザーの強度分布や位相分布および偏光分布を制御することで,単純な開口回折の限界を超えた図 6.高NAの対物レンズで集光した近赤外レーザーによる微細穴あけ加工.各パルスエネルギーの条件ごとに3回加工を施している. 超分解能の光スポット形成を達成する手法が複数提案されている.そのような高度に構造化されたレーザービームを利用することで,波長を変えなくとも加工分解能の向上を図ることができる可能性もあり,今後も調査を続ける必要があるだろう. 超短パルスレーザーを使ったレーザーアブレーション加工は,FIB法などの従来の微細加工手法では加工することが困難であった,厚さ100 nm以下のナノ薄膜を容易に加工できる唯一の手法である.本研究において,薄膜レーザー加工法の進展に取り組み,以下の成果を得た. まず,2本のフェムト秒レーザーを試料表面上で干渉させるレーザー干渉加工の手法において,使用するレーザー波長を1040 nmから520 nmへ短波長化しつつ,結像光学系の縮小倍率を最適化することで,光の集光限界を大幅に超える高分解能・高解像度の微細加工を達成した.次に,レーザーの入射パルスエネルギーを調整して試料表面上のフルーエンスを制御することで,得られる薄膜の加工形状を任意に制御できることを見出した.また,近赤外域波長のレーザー光を1本のみ,高NAの対物レンズで強く集光することによって,波長の1/10の直径(100 nm)の微細穴あけ加工を達成した.扱う薄膜試料の厚さも10 nmにまで達した.加工パラメータを適切に調整することで,比較的広い入射パルスエネルギーの範囲で,ダメージのない薄膜加工を実現することが出来た. 本研究により,非透明材料のナノ薄膜加工においては,透明材料の超短パルスレーザー加工と同様に,非線形性を利用したナノスケールに高い空間分解能が得られることが示された.本レーザー加工技術は,FIB等の既存のナノ加工技術が不得意とした材料の取り扱いを補完することができる,唯一無二の材料エンジニアリングの手法であると言える.先端の電子顕微鏡法研究で要求される電子ホログラムなどの素子に加えて,微細化の進む先端半導体産業やグラフェンなどの二次元結晶材料を用いる量子科学研究においても,将来的な応用展開が期待される新しい要素技術であるといえる. − 274 −

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