キーワード:超短パルスレーザー,ネオジム添加フッ化カルシウム,透明セラミックス 1.研究の目的と背景 [1] 一括合成粉体 Nd3+, La3+, Ca2+を含む水溶液にフッ化カリウム水溶液を加えてNdxLayCa1-x-yF2+x+yとして合成した粉体 [2] 3種混合粉体 NdF3, LaF3, CaF2それぞれの粉体を混合したもの [1][2]それぞれの粉体を用いて2・1で述べた方法でセラミックスを製作した.セラミックスの両端面を鏡面研磨し,切断や穴あけ加工では,レーザー光吸収・加熱に伴う熱伝導によって加工領域の周囲に熱影響部が生じる.また,加工部周辺には溶融盛り上がりが生成し,液滴の凝固によるデブリも堆積する.これらの問題を解決するには,熱伝導の時間スケールに比べて短時間で材料を蒸発・飛散させる非熱加工が必要である.特に,高融点・超硬材料,透明材料,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の複合難加工材料について,パルス幅がサブピコ秒〜ピコ秒の超短パルスレーザーによる高精度・高速加工への期待が大きい. 市販の超短パルスレーザーは,平均出力が数10〜400 Wに達しているが,主に増幅媒質にはNd:YVO4が用いられており,増幅帯域が狭いために10ピコ秒以下のパルス幅は困難である.一方,Yb:YAGを増幅媒質に用いた場合にはサブピコ秒が可能であるが,自己吸収を伴う準3準位系であるために,比較的低いYb添加濃度で励起密度を高くし,薄型スラブやディスクで冷却性能を向上させる.また,吸収・蛍光断面積が小さいため,多重パス光路とするなど増幅器が複雑となっている.このように,既存のレーザーには一長一短があり,超短パルスレーザー加工を広く普及させるには,サブピコ秒〜ピコ秒でパルス幅が可変,かつフォトンコストが安いレーザーを実現する技術が不可欠であり,新しいレーザー材料の開発がその鍵を握っている. 筆者らは,広帯域(サブピコ秒増幅が可能),常温動作のYb:YAGよりも大きな誘導放出断面積,比較的長い蛍光寿命,高い熱伝導率等の特長を持ち,さらに屈折率の温度依存性(dn/dT)が負であるなど,高平均出力超短パルスレーザーに適した増幅媒質を目指してNd:CaF2の透明セラミックス製作技術の開発を行った.本報告では,Nd3+イオンのクラスター化・消光を抑制するためのバッファー元素添加条件の最適化と材料粉体の混合方法がセラミックスの透光性に及ぼす影響について述べる. 2.実験方法 2・1 バッファー元素の選択と添加濃度の最適化 希土類を添加したCaF2やSrF2などのアルカリ土類金属フッ化物では,多くの場合,希土類元素は3価カチオンであり,電荷補償に起因する希土類イオンのクラスター化が消光の原因になることが知られている.3価で発光と吸収に影響を及ばさないバッファーイオンの添加によりクラ大阪大学 レーザー科学研究所 (2018年度 一般研究開発助成 AF-2018220-B3) 准教授 藤岡 加奈 スター化を抑制することが重要な課題となっている1, 2). 本研究では,先ずバッファー元素としてY3+とLa3+を候補とし,Nd3+クラスターの抑制効果について比較検討した.NdF3,YF3,LaF3,CaF2粉体を10at.%Y/1at.%Nd:CaF2,10at.%La/1at.% Nd:CaF2(添加濃度は,Y(La),NdおよびCaの合計原子数に対する割合)となるようにそれぞれ調合した.均一に混合した後,6.2 MPaでプレス成形し,さらに成形体の密度を上げるため200 MPaでCIP(冷間等方圧加圧)処理を行なった.成形体を脱脂処理後,1000 ℃ 20時間で真空焼結(2×10-3 Pa)し,1100 ℃,200 MPaで3時間HIP(熱間等方圧加圧)処理を行った.得られたセラミックスの蛍光スペクトルと蛍光寿命を計測した.また,Nd3+濃度を1 at.%に固定し,バッファーイオンを2〜15 at.%の範囲で変化させて蛍光スペクトルと蛍光寿命を測定し,それらの結果より最適濃度を決定した. 2・2 透光性セラミックスの製作 Nd3+とLa3+をそれぞれ1 at.%,10 at.%添加したCaF2セラミックスについて,以下に示す2通りの方法で材料粉体を準備した. 分光光度計を用いて透過スペクトルの計測を行なった.また,EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)元素マッピング分析によってセラミックスの均質性を評価し,ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析によってセラミックス中の元素濃度の測定を行った. 3.実験結果 3・1 バッファー元素の選択と添加濃度の最適化 製作した10at.%Y/1at.%Nd:CaF2, 10at.%La/1at.%Nd:CaF2セラミックスを波長798 nmで励起した時の蛍光スペクトルを図1に示す.スペクトルの形状は,4F3/2→4I9/2と4F3/2→4I11/2遷移バンドともに微細構造が異なっており,結晶場やNdの配置による差異によるものと推測される.特に,着目しているレーザー波長に対応する4F3/2→4I11/2遷移で− 257 − 次世代超短パルスレーザーを実現するための Nd:CaF2透明セラミックスの開発
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