1.研究の目的と背景キーワード:チタン,選択的レーザ溶融法,酸素・窒素固溶強化チタン(Ti)は,高い比強度,優れた耐腐食性や生体適合性などの特徴を有しており,広い産業分野で利用されている.なかでも,航空機用部材や医療機器では,上記の特徴を活かしたTi合金の適用ニーズが大きい.一方で,汎用Ti合金では,その高強度化のためにバナジウム(V)やジルコニウム(Zr),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb)といった高価なレアメタルの添加を基本とした合金設計が確立している.但し,バナジウムとジルコニウムの需要・供給は年々増加しており,今後もその傾向が強くなることが予測されており,更なる価格高騰が懸念される.その結果,レアメタルを含むチタン合金の価格上昇を誘発し,チタン製品の利用が限られる可能性がある.ゆえに,近年ではTi素材の低コスト化によるTi合金製部材の普及に向けて,添加元素としてレアメタルを一切使用しない新たなTi合金の材料・プロセス設計の確立が求められている.このような課題を解決する新たな合金設計として,酸素,窒素,炭素,シリコン,鉄などのように資源的に豊富で普遍に存在し,安定供給が可能で廉価なユビキタス元素の活用が考えられる.これら元素はα-Ti相やβ-Ti相の強化に寄与することが報告されているが,その一方で鋳造Ti材では,粒界偏析・濃化や金属間化合物相の析出などによりその延性低下を招く.そのため,各成分の含有量の上限値はJISやASTMにおいて厳密に管理されている.上記の問題に対して,本研究者らはこれまでに粉末冶金法を基本とする固相焼結プロセスを用いて,比較的速い冷却速度条件下でTi焼結合金を作製し,各元素をα/β-Ti結晶内に均一に固溶する新たな製法を確立した.その結果,上述したJISやASTMの規格上限値を越える酸素や窒素を含む場合でも伸び値が20%を越え,かつ1000MPa以上の引張強さを有する純Ti焼結材の創製に成功しており1,2),Ti-6%Al-4%V(Ti64)汎用合金の力学特性を凌駕する高強度と高延性を実現した.近年,新たなものづくり技術としてレーザや電子ビームを金属粉末に照射し,局所的な溶融とそれに続く急速な凝固・冷却現象を促して複雑形状部材を作製できる金属積層造形法(Additive Manufacturing, AM)が国内外で注目されている.本研究者らは金属AM法の特徴である超急速凝固冷却現象に着目し,上述した粉末冶金法によるTi結晶内への酸素・窒素原子の固溶現象をAM法に展開した.( ■■■年度一般研究開発助成■■■ ■■■ ■■■■■)大阪大学接合科学研究所教授梅田純子2.実験方法本研究では,金属AM法の一つである選択的レーザ溶融(Selective Laser Melting, SLM)プロセスを用いて高濃度の酸素・窒素固溶Ti積層造形体を試作し,各元素の含有量とそれらの結晶集合組織と力学特性(引張強さ)を調査した上で強化機構に関する定量解析を実施した.本報告書では,紙面の関係上酸素固溶Ti造形材での解析結果について詳細に述べる.酸素の供給源となるTiO2粒子(平均粒子径d0= 1.8µm)と母相を構成する球状Ti粉末(d0= 23.8 µm,純度99.5 %)を所定の比率(TiO2; 0, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0 mass%)で配合した.各配合粉末についてボールミル装置を用いて乾式混合を施してTiO2/Ti混合粉末を準備した.これらを出発原料とし,SLM法を用いて高濃度の酸素含有Ti積層造形体を試作した.本製法では,図1に示すように原料粉末を造形ステージ上にリコータブレードで供給し,所定の厚さのもとで粉末をパウダーベッドに均一に敷き詰めた後,レーザを照射する.SLM条件として,レーザ出力:160W,走査速度:535mm/s,ハッチ幅:110 µm,積層厚さ:20 µm,サポート高さ:1.5mm,スポット径:30µm,アルゴン(Ar)ガス流入による雰囲気酸素濃度:100ppm以下を設定して各試料を作製した.本実験で使用した図1. 本実験で使用したSLM装置におけるチタン粉末のチタン粉末の積層造形過程の一例(Ti64合金粉末を用いた実験例)次に,造形体中の酸素含有量(EMGA830,(株)堀場製作所製)を測定した.積層造形体の密度はアルキメデスの原理により測定し,純Tiの密度(4.51 g/mm3)に対する相対密度を算出した.組織構造・結晶方位解析にはX線回折装置XRD,走査型電子顕微鏡SEMとそれに併設する電子線後方散乱回折装置EBSDを用い,電子プロー装置− 238 −レーザ積層造形過程におけるチタン材中の酸素・窒素原子の振舞いに係る包括的理解
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