助成研究成果報告書Vol.35
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図4と図5はガス流量を固定し,種々の温度で基板を加熱した状態で成膜した時の成膜レートの変化を示している.Al2O3粉末での成膜では,データにばらつきはあるもののおおむね基材の温度の上昇にともなって成膜レートの増加が見られた(図4).また,TiN粉末での成膜においても同様に,基材温度の上昇に伴う成膜レートの増加が見られた(図5).3.実験結果および考察査速度」および「走査回数」があり,それぞれ,90°,150mm/min, 20 ~ 36回であった. ・ 組織および集合組織成膜した試料の膜厚は,微細形状測定機(ET200,(株)小坂研究所)を用いて測定した.また,作製した膜を対象にXRDによる集合組織測定を実施した.集合組織の測定はCu-K線を用い,シュルツの反射法により行った(Ultima IV,(株)リガク).X線管電圧と管電流はそれぞれ40kV と40 mAであった.基材とAl2O3膜およびTiN膜からの回折ピークの重なりを抑制するため,Mo基材を用いた.得られた不完全正極点図より結晶方位分布関数(ODF)をarbitrarily defined cell (ADC) 法3)(TexTools Ver. 3.3, Resmat Co.)により求めた.主成分の位置と主成分の発達度はODF計算により得られた完正極点図と逆極点図により評価した.試料の表面組織および断面組織については,SEM(JSM-7001F, 日本電子(株))(SU8010, 日立ハイテクノロジーズ)による組織観察を行った.また,断面組織の観察にあたり,一部の試料にイオンミリング加工(IM4000PLUS,日立ハイテクノロジーズ)を施した. ・■力学特性評価得られた膜のヤング率と硬さを求めるため,バーコビッチタイプの圧子を用いた微小荷重による負荷―除荷試験をダイナミック超微小硬度計(DUH-211, (株)島津製作所)により行った.また,膜の剥離特性を把握するため,ビッカース圧子によるスクラッチ試験をトライボロジー多機能試験機(UMT TriboLab, BRUKER)にて行った.スクラッチ試験とは膜表面上で荷重を負荷させながらビッカース圧子を走査させ,膜が破壊したときに得られる種々の情報から臨界荷重(LC値)を決定するものである.走査距離は10 mmであり,荷重を1Nから100 Nへ線形に増加させながら膜上を走査した.この時に,膜の破壊をアコースティックエミッション(AE)により検出し,AEの発生した時の荷重をLCAEとした.また,摩擦力が急激に大きくなった時の荷重をLCFtとして,膜が破壊するにあたっての指標とした.さらには,球圧子押込み試験を行い,1.5kNの負荷をかけた時の膜の剥離状態を観察した.■・■成膜条件が成膜レートに与える影響ガス流量にともなう成膜レートの変化を図2および図3に示す.Al2O3粉末にて成膜した場合は,ガス流量の増加とともに成膜レートが大きくなる傾向にある(図2).TiN粉末での成膜では,ガス流量の増加とともに成膜レートは大きくなり,最大を示した後に,低下する傾向が見られた(図3).また,基材の表面の硬さが大きいほど,成膜レートが小さくなっていることがわかる.AD法によるガス流量と成膜レートの関係は,ノズル角度が90°におけるTiN4)やAl2O35)粉末において報告されている.いずれのノズル角度においてもガス流量の増加とともに成膜レートが大きくなり,その後,最大を示した後に低下している.AD法は常温衝撃固化現象6)と呼ばれる粒子の基材衝突時の破壊や塑性変形により成膜が生じると考えられている.SKH51基材に対してガス流量を32L/minと固定して,ノズルと基材間の衝突角度を20°~90°の範囲で変化させて成膜を行い,衝突角度の違いが膜厚にどのように影響するのか検討した.図6より,衝突角度90°のとき1.27µmの最も厚い膜が得られ,衝突角度の減少に伴い膜厚は減少する傾向にあった.衝突角度60°では0.18 µm程度となった.衝突角度50°以下では,基材上に粉末が堆積せず,成膜体が得られなかった.これは,粒子が基材に衝突した際そのため,ガス流量が少ない場合には,成膜が生じるにあたっての臨界速度を粒子が得られず,基材上に成膜されないと理解される.ガス流量の増加により多くの粒子が臨界速度を超えると膜が形成され,成膜レートが大きくなるが,ガス流量が多すぎる場合には,粒子の速度の増加にともなう粒子の膜表面への衝突による摩耗に起因して成膜レートが低下したと考えられている4).それゆえ,今回も同様の現象が生じ,図2および図3に示す成膜レートの関係が得られたと考えられる.にアブレーション摩耗が成膜による粒子の堆積よりも優勢となったためと考えられる.− 191 −

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