助成研究成果報告書Vol.35
159/462

キーワード:TRIP鋼,r値,中性子回折実験 1.研究の目的と背景 製品の高性能化,高寿命化のために,高強度鋼を用いることは鉄鋼材料開発における重要課題である.自動車等に用いられる高強度鋼板に関して言えば,高強度に加えて優れた成形性が求められるが,一般には高強度になると成形性は低下する.このため,これまでに高強度鋼板の成形性向上に関する様々な研究が行われてきた1). 成形性評価としては,穴広げ試験や引張試験といったマクロな観点からの機械的試験結果とミクロな組織観察結果との関係を結びつける研究が多い.機械的試験結果に関しては,例えば,穴広げ率と全伸び(いずれも機械的特性)は必ずしも相関があるとは言えず,成形性に関する理解を深めるためには,マクロとミクロの中間のメゾオーダーでの実験データが重要な役割を果たす2,3). 以上より,本研究では高強度と優れた成形性の実現に関する課題克服のための手段として,成形性評価の階層的検討を目指した.材料として,高強度鋼板であるTRIP型複合組織鋼(TRIP鋼)に注目し,引張試験から機械的特性とランクフォード値(r値)の異方性を調査し,伸びフランジ性を評価する穴広げ試験を行った.また,マクロとミクロの中間であるメゾオーダーのデータとして,中性子線利用による引張変形中や成形加工時の残留応力測定を行い,構成相や結晶粒単位の変形挙動と加工誘起変態挙動の解析を行った.これらのデータより,TRIP鋼のr値や穴広げ率について検討を行った.また,組織解析を利用した成形性評価の試みとして,DIC(デジタル画像相間)法4)を用いて,引張変形を加えた試料におけるミクロレベルでのひずみ分布解析を行い,r値の評価を行った. 2.実験方法 2・1 引張試験および穴広げ試験 本研究では,0.2%C鋼より作製したTRIP鋼(0.2C TRIP鋼)を用いた 3,5).フェライト,ベイナイト,残留オーステナイトからなる複合組織鋼である.これまでに,引張変形中に加工誘起変態した加工誘起マルテンサイト(α')相の強度解析3,5)を明らかにしている.最近では,本課題と平行して,引張変形中に試験温度を変化させることで均一伸びの向上を目指し,その時の加工誘起変態挙動と各構成相の変形挙動を明らかにした研究成果3)を報告している. この0.2C TRIP鋼より,圧延方向に対して0, 45, 90°方向に引張試験片を作製した.試験片形状は,平行部幅5 mm,平行部長さ25 mmの平板試験片である.この試験片を用兵庫県立大学大学院 工学研究科 材料・放射光工学専攻 (2018年度 一般研究開発助成 AF-2018031-B3) 准教授 土田 紀之 いて,ギア駆動式引張試験機により,296 K,ひずみ速度5×10-4 s-1の条件で引張試験を行った.また,ひずみ15%を加えた後,引張試験を中断し,試験片の幅と伸びの変化からr値を測定した. さらに,穴広げ試験は,90 mm×90 mmの試験片を準備し,中央部に穴径10 mmの打ち抜き穴をクリアランス=12.5 %の条件で開けた.試験片はダイとしわ押えの間に荷重50 kNで固定した.次に打ち抜きパンチと同じ方向から頂角60度の円錐パンチを押し込み,端面上のき裂が板厚方向に貫通したことを目視で確認した時の穴径拡大率を測定し,穴広げ率とした.穴広げ率はN=5の平均値とした.穴広げ試験後の割れは,デジタルマイクロスコープとSEMを用いて観察を行った. 2・2 中性子回折実験 中性子回折実験は,日本原子力研究開発機構の大強度陽子加速器施設(J-PARC),物質・生命科学施設(MLF)にある,工学材料回折装置TAKUMIを使用した3,5).本装置は,白色パルス中性子を用いた飛行時間型の中性子回折装置である.引張試験中のその場中性子回折実験では,平行部幅4 mm,平行部長さ25 mm,厚さ1.8 mmの引張試験片を準備し,弾性変形領域ではひずみ速度6.1×10-6 s-1,塑性変形域では2×10-5 s-1にて引張試験を行った.TAKUMIには一対の90度散乱検出器バンクを完備しており,入射ビームに対して45度方向を引張軸にすることで,引張方向に垂直な面と平行な面の面間隔を同時に測定した. 各ピークの解析結果より,格子ひずみ(εhkl)は以下の式を用いて計算した. 𝜀𝜀�����𝑑𝑑����𝑑𝑑�����𝑑𝑑�����子面間隔,𝑑𝑑����は変形前の格子面間隔である.オーステナイト(γ)とフェライト(α)相の𝑑𝑑����は,変形前のそれぞここで,dhklは引張変形中の回折パターンから得られた格れの格子面間隔を用いた.また,α'については,格子定数と原子密度の関係式から求めるやり方5,6)や,各相の体積率と相応力の関係式から求める方法7)を用いることで,α'の格子ひずみや相ひずみの計算を行った. 中性子回折実験は,引張試験中のその場回折実験に加えて,r値測定後のひずみ15%を加えた試験片についても行った.ここでは,試験片のつかみ部と平行部中心に中性子線を当て(図1 (a)),つかみ部のデータを変形前のデータとして扱った.それぞれのピーク解析結果から,引張方向, (1) − 157 − 階層的検討による高強度鋼板の成形性向上条件の定量化

元のページ  ../index.html#159

このブックを見る