助成研究成果報告書Vol.35
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1.研究の目的と背景キーワード:水素吸蔵材料,パラジウム,スパッタ法,塑性変形,水晶振動子センサ現在,自動車分野や発電分野などにおいて,使用されている主な燃料は化石燃料である.化石燃料は,温室効果ガスの二酸化炭素,および,大気汚染物質の窒素酸化物や硫黄酸化物の排出問題から,より環境に優しい代替燃料が求められている.その一つの候補として,水素エネルギーが注目されている.水素エネルギーは,利用するうえで,二酸化炭素の排出が無く,また,窒素酸化物や硫黄酸化物の排出も無い.更に,再生可能エネルギーから生成した水素を使用することで,環境負荷を大幅に低減できる.こうしたことから,今後,定置用燃料電池システムなどの水素インフラが水素エネルギー社会を醸成し,その後,燃料電池車が大きく牽引するものと考えられている.急成長が見込まれる水素エネルギー社会の管理や保全には,高感度な水素センサが必要となる.既存の水素センサには,酸化物半導体式や接触燃焼式などがある.これらのセンサは,素子表面における化学反応を利用しており,反応促進のため,数100 °Cの定常加熱が必要である.更に,センサ表面における酸素との反応を利用しているため,無酸素雰囲気では使用できない.既存の水素センサにおける課題改善に向けて,本研究では,パラジウムに着目した.パラジウムは,自己の体積の1,000倍程度の水素を吸蔵できる1).また,圧延加工によって,塑性変形を与えたバルク試験片のパラジウムは,水素の吸蔵と脱離を20サイクル実施した際,初期形状に比べて,板厚が約3倍にまで膨張することが報告されている2).このような特有の性質を有するパラジウム材料の薄膜を水晶振動子センサの水素感応膜として利用することで,高感度な水素センサを実現できると考えた.水晶振動子センサは,板厚せん断振動する薄板水晶振動子の表面に,検出目的物質が吸着することによる質量変化を共振周波数変化として検出するセンサである3).水晶振動子の表面に,塑性変形を与えたパラジウム薄膜を形成することで,パラジウムの水素吸蔵にともない,質量変化に加えて,水晶振動子の反りに起因した共振周波数変化を生ずる.その結果,水素ガスに対する水晶振動子センサの高感度が可能となる.本研究では,AT-cut水晶振動子(2.5×1.7×0.032 mm3)の表面に形成したパラジウム薄膜に対して,面内方向に圧縮力を印加することで塑性変形を与える面内圧縮塑性変形スパッタ法を提案し,その成膜技術( ■■■年度一般研究開発助成■■■ ■■■■■■■■■)日本工業大学機械工学科准教授加藤史仁2.面内圧縮塑性変形スパッタ法を構築する.また,面内圧縮塑性変形スパッタ法で成膜したパラジウム薄膜に対して,塑性変形の有無を評価する.そして,面内圧縮塑性変形スパッタ法で片面にパラジウム薄膜を成膜した水晶振動子を内蔵する微細流路型無線水晶振動子センサチップを製作し,水素ガスの吸蔵実験を通じて,水素感応膜としての特性を評価する.面内圧縮塑性変形スパッタ法で成膜したパラジウム薄膜が,高い水素吸蔵性能,および,水素検出感度を有することを立証し,既存の水素センサの課題を改善可能な新しい水素センサ実現に貢献する高付加価値水素感応膜の創成を目指す.スパッタ法は,例えば,アルゴンガスを満たしたチャンバにおいて,高周波等を印加することでプラズマを励起し,アルゴンイオンをターゲットに衝突させることで,ターゲット材料を弾き飛ばし,成膜対象基板へ堆積する技術である.通常のスパッタ法では,成膜対象基板が平板状であるのに対して,本研究で提案する面内圧縮塑性変形スパッタ法では,曲面形状である.図1は,面内圧縮塑性変形スパッタ法の概略を示している.面内圧縮塑性変形スパッタ法は,曲面形状のホルダ表面に,成膜対象基板を固定することで曲率を与え,反りを生じた状態で薄膜を堆積する.その後,ホルダから,成膜対象基板を取り外すことで,基板の復元力によって平板状となる.この時,薄膜内部には強い応力場が発生し,面内方向に塑性変形を生じる.本手法によって,面内圧縮塑性変形を与えたパラジウム薄膜は,薄膜内部に転位やマイクロクラック等を生じることが予測されるため,水素吸蔵性能,および,水素検出感度が向上するものと考えらえる.図1面内圧縮塑性変形スパッタ法概略図遮蔽板カソードPdターゲットCrターゲットカソード曲面基板ホルダ水晶振動子遮蔽板Ar⁺Ar⁺PdPd− 153 −面内圧縮塑性変形スパッタ法を用いたパラジウム薄膜の水素吸蔵性能に関する基礎的検討

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