助成研究成果報告書Vol.34
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図1 Mg-Li-Y-Zn系合⾦の加⼯熱処理プロセス キーワード:LPSO型マグネシウム合金,マグネシウム‐リチウム,拡張転位 秋田大学 大学院理工学研究科 (2018年度 一般研究開発助成 AF-2018011-B2) 教授 齋藤 嘉一 向けられるようになってきた.ところが依然,かねてからの弱点である強度不足が改善されるまでに至っておらず,用途はごく限定的で,Mg-Li系合金の普及・汎用化を進めるうえでの課題となっている. 次世代型Mg合金として今最も注目されているのがMg97Zn1Y2合金4) を筆頭とする系で,従来のMg材を圧倒する優れた強度と延性バランスを示すのが特長である.この合金の組織は母相のHCP-Mg固溶体のほかに,周期的に積層欠陥が導入された最密充填面に対して溶質元素のYやZnが置換固溶してできた長周期積層構造相(LPSO相)を加えた二相共存から成る.5) この発見を機に,当該合金の基礎・応用研究が一気に活発化し,LPSO相自体の塑性変形機構をはじめ,優れた力学特性に及ぼすLPSO相の役割や具体的影響について盛んに調査が進められているが,未だ不明な点が多い. 最近申請者等が得た成果6) によれば,Mg97Zn1Y2に対してLiを複合添加した合金に現れるLPSO相において,溶質偏析部の局所構造に系統的な変化が現れる証拠が得られ,Li添加を利用してLPSO相の構造制御が可能になることが示唆された.また,Mg-Y-Zn系の過飽和固溶体を300℃以上の高温下で変形すると,溶質偏析を伴った拡張転位の形成,つまりSuzuki効果が活性化し,変形応力の増強に寄与することも明らかになった.7) 本研究は,Mg製構造部材の積年の課題である低延性,低靭性,難加工性の抜本的解決に向け,新しい合金構成に基1.研究の目的と背景 構造用マグネシウム(Mg)材料の普及や用途拡大を進めるうえで,大きな障害となっているのがMg基合金固有の六方晶構造に由来する低延性,低靭性,難加工性である.これに対して,Mgの結晶塑性を本質的に転換する方法として古くから注目されてきたのが,リチウム(Li)を添加して合金化する方法である.Liを固溶させることで,密度が低下して一層の軽量化が進むことに加え,HCP母相の軸比c/aが低下して非底面すべりが活性化する.さらに,Li添加量が6 mass%以上になると体心立方晶(BCC)のβ-Li固溶体が現れ,すべり系の増加に伴って延性が飛躍的に向上する.1,2) Mg-Li系合金はこれまで,製造コストや耐食性,強度の各方面に課題を抱え,民生・産業用途で需要が伸びることはなかったが,近年(株)三徳3) によって冷間加工が可能で耐食性にも優れたMg-Li-Al合金の量産技術が確立され,携帯用PC筐体への本格採用に拍車がかかるなど,再びその高いポテンシャルに社会の関心がづいた組織・構造制御を利用して,Mgの新機能の創出を追求するものである.具体的には,今最もホットな高強度Mg合金として注目されるMg-Y-Zn系の長周期積層(LPSO)構造型合金の設計指針4) に照らし,新たにLiを固溶させた4元系を基に析出組織・構造を制御することで,従来合金を凌ぐ軽量性に加え,強靭性と加工性を両立した合金創製を目指した.これを実践するにあたり,TEM,HAADF-STEM,SEM-EBSDなどの先端電子顕微鏡技術を駆使し,マクロからナノに及ぶ組織・構造のマルチスケールの評価を行った.特に,高温下での塑性変形挙動に注目し,本合金がもつ優れた耐高温変形特性において,底面すべりで生じる拡張転位に対する溶質偏析現象,つまりSuzuki効果の発現を原子識別分解能のHAADF-STEM法を駆使して検証を試みた. 2.実験方法 2・1 試料の概要 母合金の仕込み組成として4元系のMg87.9Li10Y1.4Zn0.7 (at.%) を選定し,当該組成比となるよう秤量した純金属原料を元に高周波溶解法によってアルゴン雰囲気中で均一溶製した.また,比較材としてLiを含まないMg97.9Y1.4Zn0.7から成る3元系合金を作製し,これも評価対象材とした.これら2種類の母合金 (As-cast材) に対して,図1に示すような加工熱処理を施した.ここで得られた溶体化処理材に対し,圧延方向(RD方向)に最長辺を持つ直方体形状(~3×3×5 mm2) に切断し,圧縮試験片とした. − 91 −高温塑性変形におけるSuzuki効果の検証 LPSO型マグネシウム-リチウム合金の組織・構造制御と

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