キーワード:三重結晶,クリープ変形,粒界亀裂 2.実験方法 2・1 三重結晶の育成および試験片作製 1.研究背景と目的 金属が高温変形する際に,隣接する結晶粒が結晶粒界に沿って相対的にずれる粒界すべりが発生することがある。この粒界すべりは,高温変形において重要な役割を担っている。金属は一般に極めて多数の結晶粒から構成されているため,粒界すべりは独立には起こらず,粒界の会合部において拘束を受ける。粒界すべりが粒界会合部で拘束されると応力集中が起こり,粒界に沿って亀裂が形成することがある。この亀裂形成は,最終的な材料の破断につながる可能性が高い。このため,粒界すべりと粒界会合部での拘束,および,会合部での亀裂形成について研究することは重要である。 粒界すべりについて研究するために,試験片全体が2つの結晶粒とその間にある1面の粒界から構成される双結晶が古くから用いられてきた。双結晶を用いた研究では,個々の粒界が持っている性質を調べることができる。しかしながら,粒界会合部における粒界すべりの拘束のような,多結晶中で重要な現象を全て再現できるわけではない。そこで本研究においては,3つの結晶粒とそれらの間に存在する3面の粒界が,1本の粒界三重線に沿って会合する三重結晶を用いて研究を行った。会合部における粒界すべりの拘束を直接観察できることが,三重結晶を実験に使用する最大の利点である。 同じせん断応力を作用させた場合でも,粒界すべり挙動は粒界の性格により大きく異なることが知られている。粒界の性格を記述する最も単純な理論は対応格子理論である。対応格子理論では,粒界を挟む2つの結晶粒の原子配列を仮想的に延長し,原子が元の原子の何個に1個の割合で重なるかをΣ値とよばれる値で記述する。例えば,Σ3粒界では,粒界を挟む2つの結晶粒の原子は3個に1個の割合で重なることを示している。双結晶を用いた研究により,面心立方金属においては,Σ3粒界が最も低エネルギーであり,高温において粒界すべりを起こし難いことが分かっている。特に,積層欠陥エネルギーの低い金属,例えば銅合金において,この傾向が著しい。 多結晶中に占める低エネルギー粒界,例えばΣ3粒界の割合を増やすことにより,多結晶全体の機械的性質を向上させることができるとする粒界工学の研究も古くから行われてきた。Σ3粒界の割合が増えると,2つのΣ3粒界か会合する確率も高くなる。2つのΣ3粒界が会合する場徳島大学大学院 社会産業理工学研究部 理工学域 機械科学系 (2018年度 一般研究開発助成 AF-2018003-B2) 教授 岡田 達也 所では,粒界分岐則に従って,Σ9粒界が形成する。このΣ9粒界はΣ3粒界と異なり,粒界エネルギーが高く,高温において粒界すべりが生じやすい。従って,2面のΣ3粒界と1面のΣ9粒界で構成され,これらの粒界が会合するΣ3,3,9三重線を有する三重結晶の研究は,粒界工学の観点から意義がある。 我々の研究グループでは本助成を受けるまでに,純銅(Cu)および純アルミニウム(Al)を用いてΣ3,3,9粒界を有する三重結晶を育成し,結晶から切り出した試験片に対して,0.8TM(TM:絶対温度で表示した金属の融点)程度の高温でクリープ試験を行い,粒界三重線近傍での変形挙動について調べてきた1)。その結果,純Cu三重結晶においては,Σ9粒界においてのみ粒界すべりが起こり,Σ3粒界は全く粒界すべりを起こさないことが分かった。そのため,粒界三重線における応力集中は大きくなると考えられる。一方,純Al三重結晶においては,Σ9粒界に向かい合う結晶粒内で,Σ9粒界と連続する{100}面がすべりを起こし,foldとよばれる局所変形が生じて三重線での応力集中を緩和することが分かった。 以上の研究成果を踏まえ,本研究においては3つの研究目的を設定した。それらは以下のようにまとめられる。 (1) 純Cu三重結晶および純Al三重結晶を高温クリープにより破断させて,両者における粒界すべりと応力集中緩和挙動の違いが,どのような破壊形態の違いをもたらすかについて調べること。 (2) 高温クリープ試験を行った試験片を切断してその断面を観察し,試験片内部における,粒界すべりに伴うダメージについて知見を得ること。 (3) 純金属から合金への展開を図ること。具体的には,Al-0.1wt.%Cu合金三重結晶の育成とクリープ試験を行い,純Al三重結晶の結果と比較する。 実験方法の概要を図1に示す。この手順は純Cu,純AlおよびAl-0.1wt.%Cu合金全てにおいて共通である。まず,単結晶からの切り出しにより,長手方向に<110>方位を有する種結晶を3本準備した。これらを高純度黒鉛モールド下部に設置し,モールド上部のインゴットに種結晶の方位を継がせることにより,図1(a)に示すように<110>傾角Σ− 55 − 金属三重結晶を用いた高温粒界すべりによる亀裂形成と その抑制に関する研究
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