3.国際会議報告 3.1 会議概要 International Conference on Processing & Manufacturing of Advanced Materials (THERMEC)は,材料の成形加工や製造の分野で最も重要な国際会議の一つである.今回の会議は,本来2020年5月31日~6月5日にオーストリアセンターウィーンで開催される予定(THERMEC’2020)であったが,新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)のため一年延期され,THERMEC’2021になっていた.また,コロナ終息の見通しが立たず対面による開催が困難なため,今年6月1日~6月5日にオンデマンド配信によりオンライン形式で開催された.THERMEC’2021では,世界34カ国から1520以上の参加登録者数があり,基調講演や招待講演を含め総数1500件以上の研究発表があった.事前に録画した発表資料をオンデマンド動画により会議 謝 辞 キーワード:積層造形,チタン,固溶強化 2021年6月1日~6月5日 オーストリア・ウィーン (オンライン) 参加者は自由に視聴することができ,ウィズコロナに合わせた新しい形式の国際会議となった.会議の内容として,鉄鋼材料や非鉄金属(Al, Mg, Ti等)を始め,複合材料や生体材料,エネルギー関連の構造材料や機能性材料の成形加工や製造およびその利用技術など幅広い分野をカバーしている. 3.2 発表概要 今回は“Additive Manufacturing”のセッションにおいて “Effect of Oxide Addition on Microstructure and Mechanical Properties of Selective Laser Melted Titanium”と題して招待講演を行った.発表の内容は以下の通りである. チタンは軽量,高比強度,優れた耐食性と生体適合性を有することから,インプラント等医用分野で広く利用されている.人工股関節や骨折固定器具等整形外科の分野では,材料に高強度が要求されるため,現在利用されているのは,純チタンではなく,優れた強度と延性のバランスを有するTi-6Al-4V合金がほとんどである.しかしながら,Vの細胞毒性とAlの神経毒性が懸念され,また,レアメタルであるVの使用による材料コストの増加や生体適合性の低下等が問題視されている.これまで,Vの代わりにNbや鳥取大学 大学院工学研究科 機械宇宙工学専攻 (2019年 国際会議等参加助成 AF-2019061-X2) 教授 陳 中春 一方,従来の人工股関節インプラントの問題点の一つに,平均骨格形状に基づいた設計による画一的なサイズのみの提供となっている.しかしながら,患者個々の個人差が大きく,関節の骨形状,骨欠損,変形等が異なるため,人工関節形状のカスタムメイド化が必要とされている.近年,積層造形技術は非常に注目され,最終製品の3次元CAD データに基づいて,レーザや電子ビーム走査により金属粉末を選択的に溶融・凝固させ,その繰り返し積層することで三次元構造体を作製することが可能である.この手法により,多品種少量生産で複雑な形状の製品でもそのまま成形することが可能となり,従来のものづくりプロセスに比べ,工期とコストの大幅削減が期待される. 酸素は通常不純物元素と見なされ,極力その含有量を抑制するが,本研究では,酸素を積極的にチタンに導入し,酸素の固溶強化によるチタンの強度向上を目指している.純チタン粉末と微量の酸化物粉末からなる混合物を出発原料として用い三次元積層造形を行い,造形中に酸化物の熱分解により形成した酸素原子等のチタンへの固溶強化による高強度化を図る.選択的レーザ溶融法を用いて積層造形したチタン試料の微視組織と機械的性質に及ぼす微量酸化物添加の影響を調べた.最適な造形条件で相対密度99.95%の緻密な造形体を作製することができた.XRD解析の結果,造形試料ではチタンの回折ピークが低角度側にシフトし,格子定数の増加が確認された.特にc軸長さの変化が大きいことを示した.これは添加した酸化物から分解された酸素原子がチタンに固溶したためであると考えられる.また,レーザ照射後の急速凝固により微細な針状組織が形成された.酸素等の固溶強化および組織の微細化により造形試料の引張強さや硬さが大きく向上し,Ti-6Al-4V合金に凌駕する機械的性質を示した. 本国際会議への参加にあたって,公益財団法人天田財団より国際会議等参加助成を賜りました.ここに記して深甚な謝意を表します. 1.開催日時 2.開催場所 Mo等β安定化元素で置き換えたチタン合金が開発されたが,生体用チタン合金は,依然として主に汎用のTi-6Al-4V合金が使われている. − 309 −International Conference on Processing & Manufacturing of Advanced Materials (THERMEC’2021)
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