助成研究成果報告書Vol.34
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キーワード:赤外CWレーザー加熱,セラミックス薄膜,高温超伝導薄膜 図1. REBCOの超伝導層/絶縁層の積層構造の模式図。 半導体分野でえられた成膜プロセス技術をもとにして、次世代デバイス応用にむけて有機半導体、熱電変換、超伝導、マルチフェロイック、 グラフェン・ナノカーボン材料など多岐にわたる機能性薄膜材料の研究開発が精力的に行なわれている。これらの機能性薄膜材料は、結晶が配向することで機能性が向上する。特に、薄膜作製が難しく、組成ずれが特性に致命的な劣化をおよぼすセラミック材料の強誘電体や高温超伝導体の薄膜は、パルスレーザー蒸着 (PLD)法が用いられている。本研究で対象とする高温超伝導薄膜の成膜にはPLD法を用いた。 機能性薄膜材料の中で、最も成功した材料の1つに高温超伝導体REBa2Cu3Oy (REはYを含む希土類元素、y = 6-7、REBCO)薄膜が挙げられる。高温超伝導体REBCOの結晶構造は、歪んだ積層ペロブスカイト構造からなり、高温超伝導体の特徴として液体窒素温度より高い臨界温度Tcを持つ。そのため、さまざまな電力機器への応用が期待されている。近年、脱炭素社会の実現に向けて、電動航空機の中の発電機、モーター、送電ケーブルへの応用が期待されている。その際、応用上課題であるのが、臨界電流Icおよび臨界電流密度Jcの向上である。超伝導体は、Tc以下の温度でゼロ抵抗を示すが、Icを超える電流を流すと有限の抵抗が発生しゼロ抵抗ではなくなる。さらに、Icは外部から磁場が印加されると急激に減少するため、超伝導体を電磁石として用いる回転機応用では、磁場中のIcの向上が重要である。REBCO薄膜は、通常は4 mmまたは12 mm幅、厚み0.1 mmのテープ状の形状をしており、長手方向は最大で1 kmに達する。このテープ形状をコイル状に巻くことでゼロ抵抗の超伝導電磁石として使用する。テープ線の形状からREBCO線材とも呼ばれる。日本では、REBCO薄膜は2000年代に市販化されており、線材のIcは、液体窒素温度にて500-1,000 A/cm-幅である。 REBCOを薄膜化する利点は、Icの向上である。図1に示すように、REBCOは超伝導層と絶縁層(ブロック層)が積層した構造をしており、超伝導層が電流と平行に流れる場合にのみIcが高い。よって、斜方晶または正方晶をもつREBCOの結晶異方性に対して、面垂直方向にc軸配向した結晶成長が求められる。さらに、REBCOの超伝導ギャップの4回対称の面内異方性により、REBCO結晶の粒界1.研究の目的と背景 2014 年にノーベル物理学賞をかざった青色発光ダイオード発明に代表される半導体分野を筆頭に、 薄膜材料は日本の研究開発力の重要な一画を担っている。近年では、名古屋大学 工学研究科 電気工学専攻 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018238-C2) 助教 土屋 雄司 図2. REBCO線材の構造の模式図。 が有限角度の場合、粒界をまたぐ超伝導性が抑制される。そこで、REBCOはc軸および、aまたはb軸に配向した2軸配向成長が求められる。REBCO線材の構造は、図2に示すように、約100 µm厚の耐腐食性Ni基金属ハステロイ基板の上に酸化物配向中間層を成膜し、その上に1-2 µm厚のREBCOが2軸配向してエピタキシャル成長した構造である。つまり、超伝導の空間的占有率は2%以下と、非常に低い。この原因は、REBCOのc軸配向成長の困難さにあり、REBCOは結晶構造の異方性から一度a軸配向すると、その後、a軸配向した粒が優先的に成長する。a軸配向した粒はIcに寄与しないため、薄膜の膜厚を増加させてもその膜厚以上はIcが向上しない1)。このa軸配向した粒は、REBCO薄膜の成長温度が低い場合に現れることが知られており、現在線材作製手法として広く用いられているcold wall法では、一般的な線材の厚さである1-2 µm以上の厚膜化をするとa軸配向粒が発生し、それが電流を阻害することで超伝導特性が低下する1)。ここでcold wall法とは、抵抗性のヒーターを用いて基板を間接的に加熱する方法である。今後、REBCO薄膜の高性能化に向けて、膜厚を2 µm以上に厚くしてもa軸配向した粒が出現しないプロセス手法の開発が望まれている。 そこで、我々は赤外連続波(CW)レーザーを用いた表面加熱法に着目した。薄膜表面の温度を補償するために成− 276 −レーザー加熱によるロックインPLD法の開発

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