図1. 実験セッティングの模式図 キーワード:液中レーザーアブレーション,Fe-Sクラスター,配位性有機分子 3.実験結果 3・1 ナノ粒子組成の溶媒依存性6) 溶媒として,10 mM SDS水溶液,1 mM CTAB水溶液,エタノール,アセトン,トルエンを用いて室温空気下にて検討を行った.まずSDSおよびCTAB水溶液中でレーザーアブレーションを行ったところ,CTAB水溶液中で2 nm程度のナノ粒子の生成が観測された (図2).ラマン分光分析の結果,得られたピークが一般的なヘマタイトFe2O3 (415,295,225 cm−1) と良く一致することがわかった (図3)7).わずかに高波数側へとシフトしているのは,ナノ粒子のサイズによるもので,一般に粒径サイズが小さくなると進化させる触媒として働き,生体内の代謝を担っていることから,モデル系の構築によりその性質を解明・単純化すれば,「単純なペプチドに囲まれた金属クラスター」という,初期の原始的な酵素様物質まで遡ることで,単純な有機物の化学的進化による原始生命の誕生についての情報を探ることも可能と考えられる.しかし,こうしたFe-Sクラスターは,一般に酸素に対し非常に不安定で有り,その合成には厳密に管理された嫌気条件下での慎重な操作が求められる.このことは上記の研究推進を妨げる大きな原因となっている. 一方,原始地球の環境では,235U濃度が235U/238U比にして3.5%と,現在の地球環境 (0.79%) と比べて非常に高かったことが明らかとなっている1).これは,原始地球の地殻中は天然原子炉状態にあったことを示しており,そこで発生する放射線が地下水を介して単純な有機物の化学的進化に必要なエネルギーを供給したと考えられている2).放射線と同等のエネルギーは800 nmレーザー照射でも与えられるとされており,実際に放射線によるDNAの物理的損傷現象の研究で利用されている3).また,レーザー照射による金属クラスター形成法,すなわち液中レーザーアブレーション法は金属単体から金属クラスターを直接合成できる方法として有用であり,界面活性剤水溶液中の貴金属4)や,気相中での黄鉄鉱5)に対し,レーザー照射によって金属ナノクラスターが得られることが報告されている.このことはさらに上記を結びつけ,初期の原始的な酵素様物質の合成,及びレーザー照射による高エネルギー供与による低分子量有機物の化学進化過程を明らかにするチャンスを与えてくれる. そこで筆者らは,上記の背景を基に,原始地球を模倣した反応条件として,黄鉄鉱をターゲットにFeS含有酵素のタンパク質部分の部分構造となり得る有機物を含む液中に沈め,1064 nm Nd:YAGレーザーを用いて液相レーザーアブレーション法を行った.これよりFe-Sクラスター合成にかかる困難を排し,原始的酵素様物質となりうる低分子量有機物保護Fe-Sクラスターの発生を目指した. 1.研究の目的と背景 鉄-硫黄結合 (Fe-S結合) は,地球上に多く存在する黄鉄鉱 (FeS2) を初めとして,また生体内においてもヒドロゲナーゼなどの酵素活性中心,すなわち鉄-硫黄クラスターとして広く見られる.これらFe-Sクラスターは,酸化還元反応により単純な分子をより複雑な分子システムへ大阪大学 大学院工学研究科 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018234-C2) 准教授 燒山 佑美 2.実験方法 2・1 実験装置の概要 図1に,液中レーザーアブレーション実験に用いたセッティングの模式図を示した.光源には1064 nm Nd:YAGレーザー,ターゲットにはパイライト (FeS2) を用いた.ターゲット内には回転子が取り付けてあり,アブレーションの間は回転して常に同じ面にレーザーパルスが当たり続けないように実験を行った.実験に際しては,反応容器としてパイレックスガラス製のスクリューバイアルを用い,イオン交換水,または臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム (CTAB) やラウリル硫酸ナトリウム (SDS) といった界面活性剤水溶液,エタノール,トルエン,アセトン等の有機物を溶媒に用いた.実験に用いたレーザー仕様は100 mJ/pulse,繰り返し周波数は10 Hzとし,15分間照射した. と,ラマンピークのブロード化に加え,低波数側へのシフトが観測される事が知られている8). − 262 −液中レーザーアブレーションを利用した原始的酵素様物質の発生
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