キーワード:短パルスレーザ加工,切削工具,刃先成形 ② 非接触な加工であり刃先に負荷が加わらないため脆性材料や焼結材料であっても刃先のチッピングや粒子の脱落を抑制できる. ③ レーザ光源は光ファイバーなどでも伝送できるため取り回しが良く多軸加工への応用など自由度の高い加工機設計が可能である. ④ 高エネルギー照射にともなう材料改質が可能であり形状成形に加えて低摩擦化や耐摩耗性向上などの表面改質が可能である. 1.研究の目的と背景 切削加工において刃先の鋭利性は,加工精度や仕上げ面性状を決定する重要な因子である.一般的な刃先成形手法である研削加工において,刃先のカケや工具表面への微細欠陥・クラックの導入が問題となる場合がある.例えば,ダイヤモンド工具やCBN(Cubic Boron Nitride,以下CBNと呼ぶ)工具などの高脆性材料においては,刃先成形時に生じたカケや表面欠陥の存在が切削時における工具寿命や加工表面の品質に大きく影響する.ダイヤモンド工具やCBN工具などの高いポテンシャル(高硬度や高耐熱性)を十分に発揮するためには,刃先への機械的負荷が少ない刃先成形手法の開発が重要となる. そこで申請者の研究グループでは,短パルスレーザ(フェムト秒パルスレーザやナノ秒パルスレーザ)を用いた新しい刃先成形加工法(PLG : Pulse Laser Grinding,以下PLGと呼ぶ)を提案している1-3).同手法では,短パルスレーザを工具刃先のエッジ部に比較的浅い角度(数°程度)で入射して,工具材料表面で生じるアブレーションを利用することで刃先成形を行う手法である.市販品の工具表面(PLG加工を行っていない工具の表面)とPLG加工後の工具表面を比較することで,ビッカース硬度の向上,焼入鋼の旋削への適用による仕上げ面品質の向上,耐エロージョン性能の向上など,PLG加工の優位性が確認されている.PLG加工の利点をまとめると以下の通りである. ① レーザ加工であるため被加工材の硬さの制約を受けることなくダイヤモンドなどの高硬度材料に対しても短時間で加工が可能である. このようにPLG加工はその優れた性能を有する一方で,刃先成形における詳細な加工メカニズムについては明らかになっていない.例えば,加工時のレーザ照射エネルギーや送り量,走査速度,照射角度などの違いによって最終的に生じる加工面の粗さは大きく変化することが明らかになっているものの,そのメカニズムについては不明な点が多い.加工条件をこれまでの経験則に基づいて設定しているのが現状であり,更なる高精度化や汎用技術としての展開のためには,刃先成形メカニズムの解明が重要な課題となっている. 以上の背景のもと本研究では,PLG加工において加工点で生じるプラズマ発光をハイスピードカメラで観察することで,1パルス毎における材料除去の素過程や加工面形成プロセスを可視化することを目指す.具体的には,PLG加工条件の違いがプラズマの強度や分布形状などに与える影響を調査して,刃先成形メカニズムについての考察を行う.以下,その詳細について報告する. 2.実験方法 2・1 PLG加工機の概要 図1にPLG加工法の概要を示す.同手法では,対象とする切削工具のすくい面に対して浅い角度(平行に近い角度)でレーザ光を照射する.工具(図1左図中のTool)を左右に走査することで刃先エッジ部での除去加工を行う.図中の帯状の濃いグレーの領域が加工領域である.図1右図からわかるように,レーザ光の焦点を刃先のエッジ部(稜線)と同じ高さに合わせることで,エッジ部付近のみが加工される.なお,図中の「Processing angle」はレーザ入射角度であり本実験では6°とした.また,十分に工具を操作させたのち,右図の「Feed」方向に工具を移動させた後に再度走査させる.この過程を繰り返すことで加工領域を拡大される. なお,図2に示すようにPLG加工後では「Processing angle θ」とは異なる角度(図中のθ)で仕上げ面が形成されることに注意が必要である. 図3に本実験で使用したPLG加工機の写真を示す.レーザ光源からでた光は2枚のミラーで光路を調整された後,対物レンズを含む光学系に入る.対物レンズから出たレーザ光が刃先のエッジ部で焦点が合うように対物レンズと加工する工具の位置を調整する. 本実験では,PLG加工を行う切削工具として市販の名古屋工業大学 電気・機械工学科 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018231-C2) 准教授 前川 覚 CBN工具を対象とする. − 253 − 短パルスレーザ加工による切削工具刃先成形過程の インプロセス計測
元のページ ../index.html#255