キーワード:超短パルスレーザー加工,光ファイバセンシング,局在型表面プラズモン共鳴 料への加工は,微小体積の三次元光造形,材料表面への微細周期構造形成,微小領域材料改質・除去などを可能とし,ナノ・マイクロメートルスケールの非接触加工に有力な技術であると広く認知されている1).特に,材料改質・材料除去(アブレーション)加工に関しては,様々な材料でフェムト秒レーザーを利用することにより実現可能である2).その中で,細径・軽量な透明材料である光ファイバに対してもフェムト秒レーザーによる加工が適用され,光ファイバ内の局所的な空間に新たな機能を付与する試みがなされている.代表的なものとしては,Fiber Bragg Grating(FBG)をフェムト秒レーザーによる光ファイバ内部の改質加工で形成する事例がある.近年では,光ファイバクラッド層への光導波路形成に加えて,そこにFBGを上書きすることが実現できている3).その他の事例としては,光ファイバへの非破壊のアブレーション加工が挙げられる.石英系シングルモード光ファイバに波長800 nm,パルス幅120 fsのフェムト秒パルス光を照射し,コア層に到達する穴あけ構造を形成できている4).パルスエネルギー11 J,繰返し周波数1 kHzのパルス光を照射し,光ファイバコア直径と同程度(8.2 m)の太さを有する微小空間をコア領域に設け,そこに液体試料を導入し,試料が満たされた微小空間を透過した光ファイバ伝搬光強度を取得することで試料の屈折率を計測できている.上記のように構築した穴あけファイバを用いて,屈折率1.37–1.42の範囲で6.70×10-5 RIUの分解能に到達している.また,波長400 nmの近紫外フェムト秒レーザーを用いて石英系光ファイバに貫通する穴あけ構造を構築し,ローダミン6Gなどの蛍光色素を注入して色素固有の光吸収の取得に成功した報告もある5). 一方,分光計測におけるセンシング対象を捉える新しい材料として金属ナノ粒子が注目され,金属ナノ粒子を応用した生体分子検出手法の事例が数多く報告されている.ナノスケールの金属粒子に光が照射されると,入射光電場によって金属粒子内の自由電子集団に分極が生じる.金属ナノ粒子内の分極は入射光によって振動し,金属の特性に依存して入射光の一部と共鳴現象が生じる.この共鳴現象を局在型表面プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance: LSPR)と呼び,共鳴現象による熱エネルギー変1.研究の目的と背景 超短パルス光を発振するフェムト秒レーザーによる材電気通信大学 情報理工学研究科 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018226-C2) 特任研究員 白石 正彦 換によって入射光の特定波長は減光する.光センシングに多用される金ナノ粒子は,LSPRによる光吸収波長帯を可視領域にもち,その利便性から生体分子検出手法にも多用されている.光センシングのための金ナノ粒子の扱い方に,溶液中に分散している金ナノ粒子とセンシング対象の結合によって生じる凝集を追跡する手法がある6).生体分子の添加によって金ナノ粒子に凝集が生じると光特性が変化するため,それに応じて変化する消光スペクトルを捉えることで生体分子をセンシングすることが可能となる.金ナノ粒子周囲にセンシング対象が付着した際に生じる微小な凝集現象は消光スペクトルの変化として検出できるため,その変化を捉えるためのセンシング対象は微量でも計測できる.したがって,分光計測に必要なセンシング対象を保持する容器の容積は微小でよいといえる.前述した光ファイバ導波路途中に設けた穴あけ構造を微小な分光セルとして応用することで,金ナノ粒子分散溶液を直接光ファイバ伝搬光と相互作用させることができる.被膜を除去した直径百数十マイクロメートルの石英系光ファイバを破断させることなく数マイクロメートル程度の穴あけ構造を構築できれば,容積数ピコリットル(10-12 L)程度の分光セルを形成できたことになる.上記の構造を光ファイバ型ピコリットル分光セルとみなし,金ナノ粒子分散溶液を利用した生体センシングが実現できれば,現在市販されている微量分光計測器の最小ボリュームであるサブマイクロリットルを下まわる分光計測構成を提供することができる. 本報告では,上記のような新たな光学計測手法の実現に向けた,石英系光ファイバに貫通する穴あけ構造を形成するためのレーザー照射条件について述べる.また,構築した光ファイバ型分光セルを用いた,金ナノ粒子分散溶液による微量試料測定の試験的な活用例について報告する. 2.実験方法 2.1 光ファイバ型ピコリットル分光セルの作成 図1に,光ファイバ型ピコリットル分光セルの概要について示す.フェムト秒レーザーによる高アスペクト比を有する穴あけ加工によって,石英系光ファイバに貫通する微小空間を形成し,液体試料に対するUV-vis分光計測可能なセルを形成する.計測には,光ファイバ専用の光源や分光器を用いるため,分光セル形成のみで計測系を構成する− 249 − フェムト秒レーザーによる光ファイバへの 微小空間形成と生体センシングへの応用
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