助成研究成果報告書Vol.34
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キーワード:中性子回折,高温変形,合金設計 セスは、形状付与だけでなく、微細組織制御工程としての意義を併せ持つ。具体的には組織均一化、結晶粒径微細化、集合組織の破壊もしくは付与などを目的として行われるが、これらの変化が「いつ・どのように」進行するかについては未だ不明な点が多い。これらを明らかにすることで更なる高性能化のための微細組織制御が可能になると期待される。このためには、実際に変形が進行している最中の「その場測定」による動的な情報取得が有効である。 筆者らは、J-PARC MLFに設置された飛行時間型中性子回折計「iMATERIA」を用いた、中性子回折を利用した変形機構の調査を行うための解析技術を開発してきた1)。これまでの研究では、マグネシウム合金における集合組織測定から、従来室温での活動は限定的と言われていた柱面すべり系の活動が支配的な状況下でも20%程度の最大伸びが生じることを示した2)。また、人口骨格として利用される組成の異なるコバルト合金の塑性加工性の違いについて、主たる原因が加工誘起マルテンサイト変態の頻度の違いによるものであることを明らかにした3)。これらは変形後の材料についての測定に基づくものであるが、最近、その場測定のための変形試験機を導入した。 変形試験中のその場中性子回折測定のメリットは、以下の様な事が考えられる。第一に、変形実験から各種測定への試料準備プロセスが不要である。これは試料準備プロセスにおける試料の性状変化を考慮しなくてもよいという大きな利点をもたらす。例えば加工誘起マルテンサイトは、顕微鏡観察のための研磨過程によっても導入され得る。また、鉄鋼の高温相であるオーステナイトのように実験後の冷却で変態により失われてしまう相の観察は、その場観察でしか成し得ない4)。第二に、中性子回折特有のX線回折や顕微鏡観察に対するメリットとして、表面の状態に結果が左右されにくいという点が挙げられる。鉄鋼中のMnのように加熱によって試料から揮発する元素を含む材料の場合は、表面と材料内部で化学組成が異なるため、表面観察の結果と試料全体の振る舞いに齟齬が見られることがある5)。 第三のメリットは、我々が開発している回折計「iMATERIA」の特徴として、固定された試料の集合組織をごく短時間で測定できる点である。図1に示すように、1.研究の目的と背景 熱間および冷間における鍛造・圧延などの塑性加工プロ茨城大学 フロンティア応用原子科学研究センター (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018047-C2) 助教 小貫 祐介 iMATERIAは多数の検出器を様々な方向に備え、回折強度の方位依存性を測定するのに適した装置である1)。 工業的な材料製造プロセス、例えば鍛造や圧延などは、単軸圧縮変形と同様に複数の治具で試料を挟み込んで「押し潰す」変形である。したがって変形中は材料の大部分は治具に覆われているため、目視による観察すら容易ではない。放射光X線や中性子の回折・散乱、および電子顕微鏡観察の分野においては、「その場測定・観察」は近年のキーワードであるが、これまでに開発された技術は主として引張試験のような、変形部がオープンでビーム径路確保が容易な変形様式への適用が大半であった。iMATERIAにおいても、引張変形中のその場観察実験は盛んに実施されている6)。しかしながら引張試験という様式そのものが性能評価試験という性格が強いため、機能・強度発現メカニズムの研究には適するが、微細組織形成プロセスのメカニズム研究には必ずしも最適ではない。これを行うためには、大きなひずみを与えることが出来る治具による挟み込み変形におけるその場観察が最も有効である。 可視光、X線および電子線は治具を透過できないため、上記の挟み込み変形の観察は困難であるが、中性子は多くの金属材料をセンチメートルオーダーで透過する。このため唯一希望が持たれる手法がその場中性子回折ということになる。しかしながら治具を中性子線が通過するときには、治具からの中性子散乱も生じる。これを試料由来のものと解析的に分離することは、一般に容易ではない。そのため、現状治具を介した挟み込み変形における動的な微細組織変化の追跡は、中性子を用いた場合でもビーム径路に治具が干渉しない限定的な条件下で行われている。上述のiMATERIAを用いた集合組織・相分率測定では、100を超え図1 i中性子回折計iMATERIAの模式図。 − 229 −―中性子透過能に優れた治具開発によるパラダイムシフト― 微細組織制御のための中性子回折

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