助成研究成果報告書Vol.34
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2.実験方法 2・1 成膜実験 1.研究の背景と目的 立方晶窒化ホウ素(以下,c-BN)は,ダイヤモンドに次ぐキーワード:真空アーク蒸着法,立方晶窒化ホウ素膜,膜組成 硬さ,ダイヤモンドライクカーボン(以下,DLC)を越える耐酸化特性とDLCと同等の潤滑性に加えて,鉄との不親和性に優れるといった特性を有している.このため,c-BNをコーティング膜として塑性加工金型に適用することができれば,高張力鋼板のプレス成形時における焼付きや摩耗といった課題の解決だけでなく,加工のドライ化にも寄与することが期待される. これまでにCVD法やスパッタリング法によるc-BN膜の合成は報告されているが,実用化には至っていない.これはc-BN膜が抱える課題,具体的には厚膜化の実現と優れた密着性の確保だけでなく,研究されてきた成膜方法にも問題があると考える.例えば,CVD法では基材を高温(850 ℃)に加熱する必要があるため1),基材の寸法精度に悪影響を与える可能性がある.また,スパッタリング法では成膜速度が遅い(200 nm/hr)ため2),生産性が良くない.これまで検討されてきた成膜方法は,基材品質と生産性の観点で課題を抱えているといえる. このような背景のもと,我々はc-BN膜を合成する手法として真空アーク蒸着(以下,CVA)法に着目した.CVA法は比較的低温での膜形成が可能で,成膜速度が速いことから,特に高い生産性が求められ,熱損傷を嫌う金型等へのコーティング膜形成法として普及している.そのため,CVA法はc-BN膜の塑性加工金型への適用に適した成膜方法と考えられるが,c-BN膜を合成できるターゲット材料が存在しないという大きな課題があった.しかし,当研究所では,ホウ素(B)と炭素繊維(CF)を材料としたB+CF焼結体ターゲット(蒸発源)材料を開発し,その課題を解決した3,4). 一般的に,c-BN膜を合成するためには,①イオン/原子フラックス比や②イオンエネルギーを適切に制御する必要があると言われている5).また,c-BN膜は,c-BN層と基材との間に六方晶窒化ホウ素(以下,h-BN)が存在するという特徴的な膜構造を有している5).そのため,c-BN膜を安定して成長させるためには,中間層となるh-BN膜を形成する技術を確立することが重要である.本研究では,c-BN膜を合成するために必要なh-BN膜を得るための成膜条件を確立し,次にc-BN膜を合成する成膜条件を導き出すことを目指して,膜特性(組成,構造および硬さ・弾性率)地方独立行政法人大阪産業技術研究所 金属表面処理研究部 主任研究員 上田 侑正 金属表面処理研究部 主任研究員 小畠 淳平 応用材料化学研究部 主任研究員 園村 浩介 経営企画部 部長 三浦 健一 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018046-C2) に及ぼす成膜パラメータ(アーク電流,基板バイアス電圧およびガス雰囲気)の影響を調査した. 成膜実験には,株式会社 神戸製鋼所製のUBMS202とUBMS503を用いた.ターゲットは当所が開発したB+CF焼結体ターゲットである.いずれの成膜装置においても,ファインカソード蒸発源に作製したターゲットを装着して成膜実験を行った.基板には,厚さ1mmのSi(001)ウェハを用いた. 主要な成膜パラメータとして,アーク電流,基板バイアス電圧および雰囲気ガスの3つを取り上げ,膜特性への影響を調べた.アーク電流は,成膜速度に影響を与える.基板バイアス電圧は,基材に到達するイオンのエネルギーを増大させ,皮膜の緻密化や密着性に影響を与えるほか,膜の構造にも影響を与える.雰囲気ガスは,窒化物薄膜を合成するためN2ガスを用いるが,N2ガスのみではアーク放電が不安定になることから,N2+Ar混合ガスを用いた.N2+Ar混合ガスのN2ガス分率は,膜組成に影響を与える可能性がある. 成膜パラメータとは別に,ドロップレットと呼ばれる数μmの微粒子が膜に付着することを避けるため,図1に示すように,ターゲットと基板の間に直径100 mmのステンレス製のシールドを設置する実験も行った.また,絶縁膜であるh-BN膜およびc-BN膜に高いエネルギーのイオンを衝突させるために,パルス基板バイアス電圧を印加する実験も行った.パルス基板バイアスとは,周期的に正のバイアス電圧を印加する基板バイアス方法で,本研究では24 μs間の負の基板バイアス電圧と10 μs間の正の基板バイアス電圧(負のバイアス電圧の10%の大きさ)を交互に印加した.成膜実験前にはチャンバー内をヒーター温度700 ℃で2時間ベーキング処理し,圧力1.3 Pa,基板バイアス電圧-500 Vで5分間Arイオンボンバード処理を行い,基板表面を清浄化した. − 224 −真空アーク蒸着法による立方晶窒化ホウ素膜の合成技術の開発

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