キーワード:延伸,力学的特性,界面処理 骨を直接固定する内固定が行われている.しかしながら,金属製骨固定デバイスは治療後に除去する必要があり,この再手術は患者にとって肉体的・経済的・精神的に大きな負担となっている. ポリ乳酸(PLA)は体内で非毒性の乳酸に加水分解されるため,生体吸収性骨固定デバイスの材料として注目されている.一方で,骨の形成を促す骨伝導性がない点やX線透過性のために簡易な診察ができない.そこで生体吸収性セラミックスであるβ型リン酸三カルシウム (β-TCP)粒子の添加により,生体吸収性を維持しつつ,骨伝導性の付与やX線透過性の軽減を試みた完全生体吸収性プラスチック複合材料 (PBPC : Perfectly Bioabsorbable Plastic Composites)が開発されている. が発生し,力学的特性が低下する.そこで,セラミック粒子表面に界面処理を行い,機能性界面層を付与する研究が行われている.QiuらはL乳酸オリゴマーで表面改質したハイドロキシアパタイト(HA)粉末をPLLAと複合化した.この結果,HA/PLLA複合材料の引張強度と弾性率を43 MPaと1.6 GPaから,それぞれ,68.7 MPaと2.1 GPaに向上することを報告している1).一方で,体重を100 kg,骨固定スクリューのサイズをM6,安全率を5と仮定して必要なスクリューのせん断強度を求めた結果,約220 MPaであった.従って,界面処理のみでは力学的特性の向上が不十分である. ポリマー単体の力学的特性を向上させる手法として延伸が行われてきた.これは物理的に材料を変形させることにより,分子鎖を配向させることで配向方向の力学的特性を向上させることができる.Leenslagらは乾紡と熱延伸によってPLA繊維の強度が最大2.1 GPaまで向上したことを報告している2).一方で,延伸した材料は配向方向以外の強度が低く,高い強度を得るためには大変形が必要となる. 本研究では界面処理と延伸を組み合わせたハイブリット強化手法を提案し,β-TCP/PLA複合材料の力学的特性を向上させることで完全生体吸収性プラスチック複合材料 (PBPC)を用いた骨固定デバイスの適用領域の拡大を1.研究の目的と背景 従来,骨折の治療には金属製の骨固定デバイスによってPBPCは高弾性のセラミック粒子が母材であるプラスチックスに分散しているため,弾性率の差によって応力集中サレジオ工業高等専門学校 機械電子工学科 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018042-C2) 講師 坂口 雅人 目的とした.延伸と界面処理を組み合わせることで,TCP表面とPLAが分子レベルで絡み合い,PLA単体の延伸よりも強配向することで,強度が向上することが期待される.また,具体的な骨固定デバイスとしてスクリューに着目し,PLAの延伸とスクリューの成形方法の確立を試みた. 2. 延伸及び界面処理によるハイブリッド強化手法 2・1 成形方法 2・1・1 延伸した試験片の成形 本研究では汎用グレードのPLAペレット (Ingeo 3001D,Nature Works製)とβ-TCP粉末 (リン酸三カルシウム,ラサ晃栄製)を使用した.PLAは約95,000の重量平均分子量,約170 °Cの融点,約73 °Cのガラス転移点を持ち,β-TCPの平均粒径は5.32 mであった. されたヒーターを用いて加熱され,ヒーターが延伸温度に達してから10分間静置されたのちに延伸比DR = 1.5となるように延伸された.延伸比は延伸前後の試験片長さの比として定義された.なお,上記の延伸温度と延伸比を決定するための予備実験として110 mm×10 mmの寸法に切り出した試験片に対して評価部長さ70 mmとなるようにタブを接着し10 mm/minの速度で高温引張試験を行った. PLAペレットとβ-TCP粉末は二軸混練押出機 (KRCニーダ,栗本鐵工所製)を用いて混練温度200 °C,スクリュー回転速度96 rpmで混練された. PLA単体のペレット及び混練されたβ-TCP/PLAを圧縮成形することにより,β-TCP含有率0 mass%,15 mass%,30 mass%の平板を成形した.圧縮成形は金型に離型のためのポリテトラフルオロエチレン (PTFE)のシートとともにβ-TCP/PLAまたはPLA単体のペレットをセットし,自作のホットプレスを用いて成形温度200 °Cに加熱した.その後,成形圧力0.4 MPaに加圧して,10分間静置した後,水冷を行った.成形した板の寸法は110 mm×110 mm,厚さ約1.5 mmであった. 成形されたβ-TCP/PLA板は110 mm×10 mmの寸法に切り出され,延伸された.延伸は試験片を延伸温度70 °Cに加熱して,万能試験機 (AGS-1000A,島津製作所製)を用いて10 mm/minの速度で引張荷重を加えて行った.試験片は万能試験機にセットされた試験片を囲うように設置− 203 −延伸及び界面処理を用いたβ型リン酸三カルシウム/ポリ乳酸 複合材料のハイブリット強化手法の開発
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