助成研究成果報告書Vol.34
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図9. 水素添加SUS316Lを-70 ℃で破断まで延伸した試料の温度可変PALS結果 1) L. Chiari, M. Fujinami: Handbook of Advanced Non-Destructive Evaluation, (2021), 1301-1345, Springer. 2) L. Chiari, A. Nozaki, K. Koizumi, M. Fujinami: Mater. Sci. 3) L. Chiari, A. Komatsu, M. Fujinami: ISIJ Inter., 61 (2021), 4) A. Komatsu, M. Fujinami, M. Hatano, K. Matsumoto, M. Sugeoi, L. Chiari: Int. J. Hydrogen Energy, 46 (2021), 6960. 図10. 水素添加SUS316Lを室温で破断まで延伸した試料の温度可変PALS結果 以上の結果から,SUS316L における次の欠陥挙動を考察した.-150 ℃以下では,空孔-水素複合体がα’相やε 相 空空孔孔ククララススタターー 転転位位 空空孔孔ククララススタターー 転転位位 参考文献 の境界あるいは積層欠陥といった高ひずみ領域に高密度に形成する.しかし,空孔-水素複合体は低温で安定であり,動けないので空孔クラスターには成長せず,亀裂の起点とはならず水素脆化しない.-40~-100 ℃では,空孔-水素複合体が α’相や ε 相の境界あるいは積層欠陥といった高ひずみ領域に高密度に形成するところまでは-150 ℃延伸材と同様である.ただし,空孔の可動温度は220 K であるが,応力付与により拡散が助長され,空孔クラスターに成長し,亀裂の起点となり水素脆化する.-10 ℃以上では,水素があることで空孔-水素複合体が形成するが,高ひずみ場のような環境が少なく,空孔は平均的に形成し可動して凝集することで小さめの空孔クラスターが多く形成する.その結果,亀裂の起点となるサイズまで成長せず,水素脆化しない. 4.結論 水素環境下での鉄系材料の力学特性の劣化機構は未解明であり,水素社会に向けての課題の一つである.温度可変陽電子消滅法とin-situ陽電子消滅法により純鉄やオーステナイト系ステンレス鋼の水素脆化支配欠陥を特定し,脆化機構に新知見を与えた.ひずみ速度の異なる純鉄の温度可変陽電子寿命測定の結果から空孔-水素複合体の検出,ひずみ付与によるいったん生成した空孔-水素複合体の挙動から生成位置の局所化を示した.ステンレス鋼においては,水素誘起組織および加工誘起組織を取り除き比較することで,γ 相自体が水素脆化し,空孔-水素複合体が形成していることを示した.それがひずみ不均一領域で局所的に形成・凝集し,空孔クラスターが形成・成長することで破壊の起点となり,水素脆化を引き起こすと考えている.空孔-水素複合体がα’相やε 相の境界あるいは積層欠陥といった高ひずみ領域に高密度に形成することは水素脆化の支配要因であることを実証することができた.以上,本研究の手法の独自性は高く,かつ成果の学術的・工業的波及効果も大きいと結論した. Eng. A, 800 (2021), 140281. 1927. − 202 −

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