助成研究成果報告書Vol.34
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N2図8 FCVA法によるta-CNxの成膜. 2・2 摩擦時電子エミッション測定実験 電子エミッションを測定する為に,MCP装置へ5 kVの高圧電圧を印加した.この電圧は,MPC内のIn-Out端子間に2 kV,MCP-蛍光面間に3 kVの電圧を印加することで,電子の増倍と蛍光面への電子の誘因を行った.真空チャンバー内の電離真空計から発生する電子を実際に測定した様子を図7に示す.この結果より,本実験装置構成により電子エミッションが観測されることが明らかにされた. 図7 電離真空計から発生する電子のMPC装置を用いた測定結果.(左)電離真空計稼働時,(右)電離真空計停止時. 摩擦しゅう動試験においては,相手側摩擦球材料に窒化ケイ素を用いた.しゅう動速度は25 mm/sとし,往復時の加速度は0.25 m/s2とした.薄膜コーティング材料として,窒素含有ta-C膜(ta-CNx膜)を用いた.また,しゅう動による電子エミッション観測に関する予備実験として,摩擦帯電を生じやすい樹脂材料であるPTFEを用いた摩擦試験を実施した. 2・3 薄膜コーティング成膜試験 本研究では,FCVA法(filtered cathodic vacuum arc deposition)を用いたta-CNx成膜を実施した.DLC膜の成膜手法には大別してCVD法(chemical vapor deposition)とPVD法(physical vapor deposition)が存在するが,一般的にPVD法を用いた成膜方法により硬質なDLC膜を成膜できることが知られている.しかし,PVD法においては炭素ターゲットよりドロップレットと呼ばれるナノメートルからマイクロメートルスケールのクラスターが形成されてしまうことが知られている.このドロップレットは表面粗さの増加につながり,摩耗の起点,酸化の起点になるため,成膜時にそれを取り除く手法が望まれる.そこで考案された手法がFCVA法である.FCVA法では図8に示すように炭素ターゲットと成膜基盤が直交する配置になっている.アーク放電によりイオン化された炭素原子はダクトに配置されたコイルが発生させる電磁場により進行方向を曲げられ,最終的に成膜基盤へ到達する.一方で,イオン化することなくターゲットから脱離した炭素クラスターであるドロップレットはコイル電磁場で曲げられることなく直進し,成膜基盤に到達することなく回収される. 本実験においてもこのFCVA法を用いることでドロップレットが少なくかつ高硬度のta-Cを成膜した.また本実験では,アーク放電による炭素のイオン化と同時に,イオンビームガンを用いた窒素イオンの照射によりta-C膜内に窒素原子をドープすることでta-CNxを成膜した.本実験においては,すでに破壊靭性値が既知であるシリコンウェハ上にta-CNx膜を成膜した. 3.実験結果と考察 3・1 PTFEを用いた摩擦試験による電子エミッション測定実験 PTFEと窒化ケイ素球を用いた摩擦試験を荷重3水準で実施した(0.8 N,1.5 N,3.0 N).また摩擦試験中に放出される電子エミッションを同時に測定した.それらの結果を図9に示す.結果として,荷重が0.8 Nから3.0 Nへ増加するにしたがって摩擦係数が減少するという傾向が確認された.電子エミッションに関しては,いずれの試験荷重においても摩擦初期にはほとんど観測されなかったが,摩擦サイクルが350秒程度を過ぎたあたりで多くの電子エミッションが観測され始めた.これは,摩擦による帯電によりPTFE表面に電荷がチャージされ,それが摩耗による破壊現象により放出されることで生じたと考えられる.特に,垂直荷重が0.8 Nの試験においては摩擦サイクル400秒以降に継続的な激しい電子エミッションが確認された. 今回得られた電子エミッションカウント数の合計と,その試験片における摩耗量を比較した結果を図10に示す.この結果より,電子エミッションが多く観察された試験片ほど摩耗量が多いことが明らかにされた.通常摩耗量は試験後に表面を観察することでしか分析できないが,本試験手法を用いることで,摩擦が進行するに従いどのように摩耗量が推移するかを測定することが可能となる可能性が AnodeDuct biasDropletcollection part− 190 −Graphite cathodeArTriggerFiltered arcplasma beamSpecimenLVPLVRPBiasIon beamRotationSubstrateCVRVMVCRYOFVTMP

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