図1 シリコンウェハ上に成膜されたDLC膜のビッカース圧子を用いた破壊靭性測定.(左)ta-C,(右)柱状構造を有するta-C膜4,5). キーワード:電子エミッション,高機能性コーティング,破壊靭性 テクスチャリングの工業製品への応用は数十cm四方に収まる小さい領域や微小な部品への適用から開始されてきたが,最近ではレーザーを用いたテクスチャリング加工技術の発展などにより広い面積への適用が始まっている. マイクロ・ナノテクスチャリングの大面積への適応は加工の容易性や生産性の観点からレーザー加工により行われるのが一般的であるが,より高速なテクスチャリング形成を実現する為にはプレス塑性加工の活用が望まれている.しかし,表面に微小パターニングを有する金型を用いてプレス塑性加工を行う場合は,パターンの頂上部に大きな応力が加わるため金型材料の摩耗が大きな問題となる.一般的に金型の摩耗を防ぐためにはコーティングを施す対策が取られている.一方で微小形状が多数ある表面においては,凸部や角部に大きな引張応力が発生する為,引張強度や破壊靭性に優れたコーティングの開発が不可欠である.しかし,薄膜コーティングの破壊靭性を定量的に評価する手法はこれまで確立されておらず,最適な薄膜選定のための新しい薄膜破壊時靭性評価手法の確立が求められている. ムヒュディンらは,炭素系硬質薄膜(diamond-like carbon; DLC)の耐摩耗性メカニズム解明のために,図1に示されるように異なるDLC膜種の破壊靭性値の測定を実施した4,5).この手法では先ず,DLC膜が成膜されたシリコンウェハにマイクロビッカース圧子を押し付けることにより発生する亀裂の長さを測定する.その後,測定された亀裂長さ,ナノインデンテーション法により測定されるヤング率および膜厚などの各パラメータを用いることによりDLC膜自体の破壊靭性値が算出される.この破壊靭性値測定手法の優れた点は,薄膜コーティングと基材の破壊靭性値の切り分けが困難であった従来の四点曲げ試験などによる欠点を,シリコンウェハという脆性材料上に成膜することで解決している点である6).この手法を用いた結果,ta-C膜(tetrahedral amorphous carbon)の残留応力と破壊靭性の両方が耐摩耗特性に影響していることが明らかにされた4,5). 1.研究の目的と背景 近年,様々な表面微小形状が新しい機能性を発現することが明らかにされてきた1-3).このようなマイクロ・ナノ名古屋大学 大学院工学研究科 マイクロ・ナノ機械理工学専攻 (2018年度 奨励研究助成(若手研究者) AF-2018037-C2) 助教 村島 基之 一方で,シリコンウェハなどの脆性材料上に成膜することで薄膜コーティングの破壊靭性値を測定する手法では,一般的な機械部品に使用される炭素鋼とは異なる基材の上への成膜が必要となる.しかし,成膜プロセスにおいて基材の導電性や表面エネルギーはコーティング膜の機械特性や物性を左右する重要な因子であるため,この手法では本来測定したいコーティング薄膜特性を測定できていないことが懸念される.従って,実際の金型表面コーティングの耐久性を測定するためには,実際に使用される金型材料表面に成膜されたコーティングを用いた破壊靭性値評価が必要であり,それを可能とする新しい手法の開発が強く求められている. 材料の破壊により亀裂や破壊面が新たに作り出される際には,そこに蓄えられていた電子が放出されるという電子エミッション(電子の飛び出し)が観測されることが報告されている.従来この電子エミッションの測定はバルク材料に対して行われ,セラミックスなどの材料強度を求め 図2 DLC膜の摩擦時に観測された電子エミッション分布の様子7). − 188 − 電子エミッションを利用した薄膜コーティングの 高圧力プレス金型に対する高機能性コーティング適用への挑戦 革新的破壊靭性評価技術の開発と
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