助成研究成果報告書Vol.34
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4.まとめと今後の展望 謝 辞 参考文献 対するシングルショット加工について,照射エネルギーをそれぞれの偏光状態におけるアブレーションしきい値Ethに対して1.25倍,1.5倍,1.75倍,および2倍とした場合の加工痕形状を,電子顕微鏡法(SEM)および原子間力顕微鏡法(AFM)で観察し,加工痕の深さプロファイルを計測した結果を示す.本観察結果から,方位偏光ビームを用いた場合の加工痕は,ドーナツ状のアブレーション痕が明瞭に確認され,また照射エネルギーの増大に従って中央部分に形成されるピラー構造が明瞭化することがわかる.一方で,径偏光ビームの照射では,アブレーションしきい値近傍から2倍の照射エネルギーの範囲において,何れも中央部分は消失しており,窪んだ形状であることが確認された.この観察結果から,径偏光ビームを照射した場合のスポット状加工痕は,約1 mの直径に対して100 nm程度の深さを持つことがわかった. このように,径偏光ビームを用いた場合のシングルショットレーザー加工で得られるスポット状の加工痕は,開口数が極めて大きな集光条件の下で,特に反射率の高い銅やアルミニウムなどにおいて特異的に生ずる現象であることがわかった.前項で検討した通り,径偏光ビームを反射率の高い銅表面に集光した場合,表面は軸方向電場による強い定在波が形成される.本実験では,高次径偏光ビームを用いた場合の銅やアルミニウムに対する加工しきい値は340 nJおよび200 nJであり,他の材料よりも数倍から1桁程度大きい値であった.このことから,他の金属材料と比較して,アブレーション加工が生ずる条件においては,試料表面には非常に強い軸方向電による定在波が発生していたと予想される. 現段階では,金属表面に発生する強い軸方向電場による定在波が,具体的にどのようなプロセスに基づいてアブレーション加工に寄与するかを詳細に説明するまでには至っていない.しかしながら,本実験結果から予想される機構の一つとして,高強度の光パルス照射によって金属表面から外部へ放出される高エネルギー電子が加工プロセスに関与した可能性が考えられる.つまり,パルス照射で表面から放出された高エネルギー電子が,ごく近傍に存在する強い軸方向電場によって光軸方向に加速され,一部が試料へ再衝突することでアブレーションプロセスが促進する可能性が考えられる.実際に,異種媒質の界面上に軸方向電場による定在波を形成し,この定在波を用いた荷電粒子の加速(あるいは減速)が可能であることが実験的に報告されている9).本実験では,これと類似した状況が金属界面上で生じたと考えられる.ただし,このような加工メカニズムを詳細に解明するためには,加工雰囲気の制御や,ポンププローブ法によるアブレーション過程の時間分解計測などによる精密測定が今後必要になると思われる.これらの実験を通じて軸方向電場が焦点に強く発生する条件での加工特性や機構を明らかにできれば,微小集光スポット特性を持つ高次径偏光ビームの特性を駆使した新たなレーザー微細加工プロセスの開拓につながると期待される. 本研究では,次世代のレーザー加工において要求されるサブミクロンから究極的にはナノメートルオーダーでの超微細加工技術を達成するための基盤技術として,レーザー光の偏光や位相の空間分布を高度に制御したベクトルビームによる新しいレーザー微細加工技術の開発を目的とした.実際に,独自のレーザー加工光学系を構築し,ベクトルビームに変換した超短パルスレーザー光を高NAレンズを用いて金属表面に強く集光した場合の加工特性を詳細に検討した.本実験から,径偏光ビームの強い集光によって焦点に生ずる軸方向電場が,材料依存的にアブレーション加工に寄与する可能性を初めて示すことに成功した.加工メカニズムの詳細については今後のさらなる検討が必要であるものの,本結果は,高NA集光条件下において形成される光の3次元的なベクトル場が,レーザー加工に対して重要な役割を果たす潜在性を強く示唆している. 本研究で着目したベクトルビームの集光特性は,対物レンズのNAが大きい場合に効果的に得られる10).レーザー加工のさらなる微細化を目指す上で,対物レンズの高NA化は避けては通れない方向性といえる.本研究で用いるベクトルビームは,このような高NA加工条件においてこそ効果を発揮するビームであり,本研究結果は,次世代のレーザー加工技術の開発に対して重要な知見になると考えられる. 本研究は,公益財団法人天田財団の一般研究開発助成(AF-2018208-B2)を受け実施されたものであり,ここに謝意を表します.また,本研究の遂行において,東北大学多元物質科学研究所 佐藤俊一教授および佐藤柾氏(同研究室修士学生・当時)ならびに研究室の皆様には多大なご協力とご助言をいただきました. 1) K.S. Youngworth, T.G. Brown: Focusing of high numerical aperture cylindrical-vector beams, Opt. Express, 7, (2000), 77 2) Y. Kozawa and S. Sato: Sharper focal spot formed by higher-order radially polarized laser beams, J. Opt. Soc. Am. A, 24, (2007), 1793 3) Y. Kozawa and S. Sato: Laser microprocessing of metal surfaces using a tightly focused radially polarized beam, Opt. Lett., 45, (2020), 6234 4) D.P. Biss and T.G. Brown: Cylindrical vector beam focusing through a dielectric interface, Opt. Express 9, (2001), 490 5) M. Hashimoto et al.: Enhancement of second-harmonic generation from self-assembled monolayers on gold by excitation with a radially polarized beam, Opt. − 153 −

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