図2 径偏光ビームを銅表面に強く集光した場合の強度分布(NA = 0.85, = 1040 nm).左:半径方向電場,右:軸 図2の計算結果から,径偏光ビームを真空中あるいは大気中から集光する場合には,焦点での軸方向電場は金属内 図3 レーザー加工光学系 属側(銅内部)では,金属による光吸収によって20 nm程度の範囲で急激に光強度が減衰する様子(表皮効果)が見られる(図2におけるz>0の領域).ただし,金属内部における半径方向電場と軸方向電場の強度分布を比較すると,入射側では光軸上に強く存在している軸方向電場(ピーク強度比では半径方向電場の2.2倍)は,金属内部では半径方向電場と比べて著しく減衰することがわかる.本条件では,金属内部における軸方向電場のピーク強度は半径方向電場のピーク強度に対して2.5%程度となる.これらは,異種材料界面における電場の境界条件を反映した結果であり,界面における電場の法線成分に対応する軸方向電場については,媒質間の誘電率の比に応じて振幅が変化するためである4,5). 部では半径方向電場に比べて無視できるほど減衰することがわかった.金属試料に対するレーザー加工では,照射レーザー光が金属内部に侵入し,その光エネルギーの吸収を起点として加工プロセスが進むことに基づけば,焦点での軸方向電場はレーザー加工プロセスに直接寄与する可能性は極めて小さいことを示唆している. 一方で,界面入射側での軸方向電場は,試料表面上では定在波の腹となるため,強い電界強度が表面上に形成される点に注目したい.本特性は,反射率の高い金属ほど顕著に生ずる.例えば,本条件において,300 fsのパルス幅で100 nJのエネルギーを持つパルスを集光した場合には,図2に示す銅表面での定在波の瞬間的な振幅の大きさは30 GV/m程度に達する.このような強い軸方向電場による定在波の存在は,金属表面でのアブレーション過程において,その初期過程で生じ得る高エネルギーの荷電粒子との相互作用をもたらし,通常の加工プロセスとは異なるアブレーションプロセスが生ずることが予想される.本検討結果を踏まえ,径偏光ビームを強く集光した場合の加工プロセスを実験的に明らかにするために,ベクトルビームを用いた独自のレーザー加工実験系を構築し,レーザー加工試験を試みた. 3.高次径偏光ビームによるシングルショットレーザー加工実験 3・1 実験方法 本実験では,図3に示すような独自のレーザー加工実験系を構築した.波長1040 nmのパルスレーザー光(パルス幅300 fs,最大パルスエネルギー40 μJ)を,加工用光源として採用した.本加工光学系では,液晶型空間光変調器(LCOS-SLM) および12分割波長板をレーザー光路中に挿入し,任意のリング数を持つ高次横モードベクトルビームを生成できる.なお,分割波長板は,透過型液晶素子により構成されており,駆動電圧を制御することでベクトルビームへの変換の有無を電気的に切り替えることが可能である6,7).また,分割波長板の手前に設置した1/2波長板を用いて,分割波長板に入射する直線偏光ビームの偏光方向を回転させることで径偏光と方位偏光の切り替えを行った. 本実験では,焦点に軸方向電場を発生する径偏光ビームと,これに直交した偏光分布を持つ高次方位偏光ビーム,および比較のために円偏光ビームでの照射実験を行った.方位偏光ビームは,高NA条件での集光に対しても軸方向電場が発生せず,常に横方向電場からなるドーナツ状の強度分布を形成する.そこで,これらのビームを用いた場合の加工痕の形状を観察することで,径偏光ビーム照射時の軸方向電場による寄与について考察することとした.また,円偏光照射を行う場合は,分割波長板の動作をオフにした上で,光路中に1/4波長板を挿入した. レーザー光はNA=0.85の対物レンズを用いて試料表面上に集光し,シングルショットでの加工を行った.得られた加工痕は走査型電子顕微鏡により観察した. 3・2 実験結果 図4に空間光変調器を用いて6重リング状の0-位相シフトを持つ位相分布を印加した円偏光,方位偏光および径偏光ビームを用いて,鏡面研磨された各種金属薄板(100 m厚)および比較のためにシリコン基板をシングルショットで加工した結果を示す.照射パルスエネルギーは,各レーザー照射条件・材料において加工しきい値の2倍となるように設定した.なお,各条件での加工しきい値は照射偏光および材料に依存し,焦点位置で数10から数100 nJの範囲であった. 方向電場. − 151 −
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