1.研究の背景と目的 (1) 大型溶接構造物で生じる損傷の多くは,溶接止端部を起点とする疲労破壊である.そこで,溶接止端部(2) 表層部が溶融するということは,付与される熱履歴の観点から,表層より一定距離深い箇所の結晶粒がは深刻なダメージを受け,場合によっては剥がれ落ちてしまうこともある.長期に渡って疲労強度を良好に保持することを考えると,応力集中の影響が低下する表層部よりも深い箇所に結晶粒微細化効果を付与するほうが望ましい. 一方,申請者は従来のアーク溶接と比べて優れた継手品質を有し,かつ大型構造物建造に適用される板厚やギャップ裕度にも対応可能と期待されるレーザ・アークハイブリッド溶接技術を船体構造の建造に適用するため,様々な検討に取り組んできた2).その成果の一つとして,大型溶接構造物中に多数存在するすみ肉溶接継手を,ハイブリッド溶接により片側からの1パス完全溶込み継手に置き換えることを考え,長尺溶接にも対応できる施工条件を確立するとともに,溶接変形や疲労強度の面での優位性を確認している.この置き換えを達成できれば,強度要件を満たしつつ,より軽量の構造物の製造が可能となる.また,上述のハイブリッド溶接による継手の溶接止端に表面近傍の溶融を許容するレーザ照射処理を施せば,従来のアーク溶接による溶接継手と比較して長期の稼働期間において優れた疲労寿命を有する継手の製造が可能となる. 本研究では,上述の研究背景に基づき,溶接止端部に対する表面溶融を許容する適切なレーザ照射条件について検討するとともに,疲労強度改善効果に関しても検討を実施した.実験には申請者の研究室が所有するレーザ・アークハイブリッド溶接実験装置を活用し,レーザ光路上に意図するガス雰囲気を形成するため,アークトーチからガスのみを噴出するなどの工夫を行った. 2.レーザ照射条件に関する検討 2.1実験条件と方法 最初に,レーザ照射条件と結晶粒微細化の関係性に関する知見の蓄積を目的に,レーザ照射時の雰囲気ガスおよびレーザ照射回数が溶込み形状と結晶粒の微細化の度合いに与える影響を確認した. 実験方法は,レーザ光路上にCO2ガス雰囲気を形成した状態で照射を行った.レーザヘッドは試験体とほぼ垂直に配置した.供試材は板厚14 mmのKD36鋼(船級協会承認を有する降伏応力36 kgf/mm2級の低炭素鋼)である.表面性状は防錆プライマを剥離し,フライス加工により黒キーワード:レーザ照射,結晶粒微細化,応力集中緩和,疲労 船舶・海洋構造物,橋梁,鉄道車両,高層建築鉄骨構造等,多くの大型構造物の損傷形態は応力集中部を起点とする場合が大半である.日本機械学会による機械・構造物の破損事故例の分類によれば,損傷事故の8割以上に疲労が深く関わっていることから,大型構造物における疲労損傷事故を防止することは,豊かでかつ安全な社会活動を営むために,極めて重要な課題である.大型溶接構造物中には応力集中源である溶接継手が多数内在していることに加え,母材性能が改善しても疲労強度の改善には寄与しないという広く知られた事実がある.溶接継手の疲労強度改善を目的とした耐疲労鋼も開発されているが,耐疲労性能の劇的な改善には至っていない. 金属材料の強度と靭性を同時に改善可能な手法は結晶粒微細化のみであるが,西尾ら1)は,軟鋼板にレーザ照射を繰り返し,照射部近傍温度履歴がA3変態点を跨ぐ前後となるようにすることで,結晶粒が微細に均一化することを示している.ただし西尾らの方法では,金属を溶融させないように小入熱のレーザ照射を複数回付与するようにしている.一方,金属表面を溶融させないレーザ照射条件を与えることは必ずしも容易ではない.著者らは,大型構造物の強度部材として使用される通常鋼を評価対象として,西尾らの方法に沿って,材料表面を完全に溶融させない結晶粒微細化を試みたが,適切な条件を導出することは困難であった. この結果を考慮し,表層部の溶融は許容する立場を採用することにしたが,表層部の溶融を許容すると,逆に以下の点で有利なことが期待される. にレーザ照射処理を施して結晶粒微細化効果を付与しようとすれば,TIGドレッシング処理と同様に溶接止端形状が滑らかなることから,応力集中が緩和して溶接継手の疲労強度に対して有利に働く. 微細化される.船体の船倉部やバラストタンク部を考えると,経年に伴う腐食や積載時の(バケットなどの衝突に相当する)グラブ荷重等の影響で表層部九州大学 大学院工学研究院 海洋システム工学部門 (2018年度 一般研究開発助成 AF-2018206-B2) 教授 後藤 浩二 − 144 −レーザ加工技術を援用した 長寿命大型溶接構造物建造技術に関する研究
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