1.研究の背景と目的倒立顕微鏡で観察図1動物皮膚表面(角質層)への蚊の口針の穿刺.皮膚が全く窪まない.図2蚊の針の人工皮膚上での回転運動加工では不可能である(複数の精密プレス加工メーカに問い合わせた結果).一方,樹脂の成形加工であれば絞りが可能となる.1・2研究目的以下の3項目を目的とする.①生分解性プラスチック材料の成形加工により蚊と同じ微小なサイズの中空針を作製する.②金型構造の工夫をし,針先端まで樹脂が充填され,かつ芯材となるピン(後で離型し針の中空部を形成する)が偏心したり折損したりしない最適な成形条件を探索する.③携帯型の針の往復回転穿刺装置に,作製した微細中空針を取り付ける.この装置を用いて,人工皮膚,動物皮膚への針の穿刺・血液の吸引実験を行い,針の信頼性も含めた性能評価を行う. 極小の中空針を作製する際,金属加工では絞り加工に限界があり作製不可である.そこで本研究では,生体適合キーワード:蚊の生体模倣,マイクロニードル,射出成形,回転穿刺1・1研究背景痛みが少ない注射針が医療の現場で望まれている.例えば糖尿病患者は1日数回血糖値検査のために採血を行い,その値に基づいてインスリンを適量皮下投与しなければいけない.このための注射針による皮膚穿刺の際,痛みを伴う.針を細くすることで皮膚上に約1 mm間隔で分布している痛覚神経(痛点)を避ける試みが多数行われてきたが(たとえばテルモ社が“痛みの無い注射針”として外径0.18 mmのものを商品化している1)),まだ痛みの軽減の余地がある.一方人間は蚊に刺されても痛みを感じない.これは蚊の針の直径が0.05~0.06mmと現行の注射針に比べて細いこと(外径1/3以下,断面積で1/9以下),およびその刺し方に原因がある2-5).血糖値検査においては,バネを用いて針を瞬間的に皮膚に突き刺し,滲んでくる血液を採取している.血管をある程度大きな範囲でランダムに破壊して出血させるのではなく,蚊と同様に浅い血管にアクセスし,そこから必要量のみ採血すれば,痛みの低減が期待できる.次に,針穿刺時の皮膚のたわみについて考察する.生物(人間,動物)の皮膚は硬い角質層の下に,表皮,真皮があり,それらが極めて柔らかい皮下組織の上に載っている多層構造をしている.このため,針を刺すと角質層を貫けずに皮膚が大きくたわみ(窪み),「暖簾に腕押し」のようになかなか針が刺さらない.血管も針に押されて変形し,なかなか血管壁に針が刺し入れることができない.それに対して,蚊は全く皮膚をたわませることなく口針を穿刺でき(図1),血管を変形させることなく口針を刺し入れて吸血できる.申請者らは皮膚への穿刺に際して,蚊が針を往復回転(正負方向の交互回転)させていることの観察に成功した(図2).予備実験として人工皮膚に直径0.1 mmの針を蚊と同じ180rpmの回転速度で穿刺したところ,穿刺抵抗力が大きく低減し,皮膚も窪まないことが確認できた6).申請者は,MEMS,光造形,フェムト秒レーザー等の微細加工技術を駆使し,マイクロニードルの作製を行ってきた.前記したように針を回転させることが大きな効果を持つことを解明した.これを工学的に実現させるには,回転する針をベアリング(玉軸受け)で支える必要があるが,現行の最小のベアリング内径は1 mmである.このため針はシャンク(柄)部分を外径1 mmで作る必要がある.この径から先端径である0.06 mmまで外径を絞ることは,金属関西大学システム理工学科(2018年度一般研究開発助成AF-2018019-B2)教授青柳誠司2.PLA中空針2・1針の作製皮膚口針下唇− 117 −蚊の針のサイズを追求した中空マイクロニードルの微細成形加工
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