助成研究成果報告書Vol33
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図1 レーザー転写法の例. キーワード:レーザー転写,生理活性タンパク質, アパタイト (a) ナノ/マイクロドット描画と(b)膜転写. 我々はこれまで,レーザー転写プロセスを駆使した物質デリバリー手法を考案,プロセス解明ならびに産業応用に向けた研究開発に取り組んできた[1-3].レーザー転写は,一般にレーザー誘起前方転写法(Laser-Induced Forward Transfer, LIFT)と呼称され,レーザーアブレーション等のレーザー誘起現象を推進力に利用して物質を移すデリバリー手法であり,微小ドットから膜形状まで多様な構造を転写堆積することができる(図1).古くは1970-80年代から金属等のレーザー転写に関する研究報告が始まっている[4,5].レーザー転写法の特長として,固体・液体選ばず原料(ドナー)とでき,金属[6,7],半導体[1,3],酸化物[2,3],銀ナノインク[8,9]やバイオインク[10],タンパク質や細胞など生体材料[11],最近ではグラフェン[12]と新材料を含め適用範囲を拡大し続けている.近年では,金属,導電性酸化物や銀ナノインク等の配線描画によるエレクトロニクス応用や,他技術では難しい高粘性バイオインクや細胞の2D・3Dプリンティングによるバイオ・医療応用などが注目を集めている.一方で,レーザー転写技術の主な課題は,転写物の形状・堆積位置制御といった高精度化と,転写時のドナー物性保持や転写物と転写先基板(レシーバー)の密着性などの高品位化にあり,欧米を含め研究開発が活発化している. 我々はその様な背景のもと,歯や骨の主な無機成分であり生体親和性に優れるハイドロキシアパタイト(Hydroxy apatite, Ca10(PO4)6(OH)2 , 以下アパタイト)のレーザー転写に取り組んでいる.アパタイトは,骨伝導性ならびにヒトの軟組織および硬組織との良好な生体適合性を示すため,アパタイトコーティングは様々なインプラント材料(例えば,歯根および人工骨)に適用されてきた.従来のアパタイトコーティング技術は,非位置選択的であり,高温や長時間処理を必要とする.その中で,過飽和リン酸カルシウム溶液中でアパタイトを基材表面に析出させるバイオミメティック法[13]は,非熱コーティング技術であり,タンパク質などの熱に弱い生理活性物質も高い生理活性を保持した状態で膜中に担持できる.しかしソフトプロセスであるがゆえ数百ナノメートルからミクロン厚のアパタイト膜を形成するのに数時間から数日かかる. そこで本研究では,レーザー転写法を基盤技術に,生理活性アパタイトの高速・高密着コーティング手法を提案,歯周病再生医療の新しい歯科術式に資する「早期治癒を支援するレーザー生理活性コーティング」手法として,その基礎実証に挑戦する.我が国の成人の約8割が罹患しているといわれる歯周病治療では,歯周ポケット周囲の感染部を除去後,ぺリオドンタルアタッチメントの再形成を試みる.しかし,歯周病に罹患した歯は,本来の歯に比べ,ぺリオドンタルアタッチメントが再構築されにくく,再度の細菌感染・増殖により歯周病が再発し易い.そこで,歯面にヒトの歯や骨の主要無機成分であり優れた生体親和性と骨結合能を有するアパタイトをコーティングできれば,ぺリオドンタルアタッチメント形成を促進できる.さらに,細胞接着性や骨形成促進能などを有する生理活性タンパク質をアパタイトに担持できれば,ぺリオドンタルアタッチメント形成にかかる時間を短縮化,その結果術後の細菌感染リスクも低減できるため,患者のQOLに大きく貢献する.以下,本研究により得られた成果を報告する. 2.実験方法 2・1 バイオミメティック法による生理活性タンパク質担持アパタイト転写原料膜の調製 図2に,本研究のレーザー転写用原料膜(ドナー)となる,細胞接着性因子としてフィブロネクチン(fibronectin, Fn)を担持あるいは非担持のアパタイト膜のバイオミメティック成膜手法を示す.Fnは,細胞接着性タンパク質の一種であり,細胞の接着・伸展を促進する機能を有する.アパタイトを成膜するため,透明キャリア(サポート)としてポリエチレンテレフタレート(PET)を使用,その上に犠牲層(レーザー光を吸収しアブレーションを起こす層)としてカーボン膜を蒸着法により成膜した基材を用いた.この基材をカルシウム溶液とリン酸溶液に交互浸漬処 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 電子光基礎技術研究部門 先進レーザープロセスグループ 1.研究の目的と背景 研究グループ長 奈良崎 愛子 (平成29年度 重点研究開発助成B課題研究 AF-2017202) − 80 −早期治癒を支援するレーザー生理活性コーティング技術開発

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