4.結論 超短パルスレーザを用いると、その超高強度性により透図7 ナノチャネル中を移動するがん細胞の共焦点蛍光顕微鏡による観察、(a) 細胞核のみを赤色蛍光タンパク質で染色したがん細胞、(b) 核に加えて、細胞体を緑色蛍光タンパク質で染色したがん細胞 ない。がん細胞の転移を抑制するためには、まずがん細胞転移のメカニズムを知る必要があり、その一つとしてがん細胞が自身の大きさより狭い領域をどのようにして通り抜けるのかを調べる必要がある。そこで、複合超短パルス秒レーザ3次元加工技術を用いて作製した微小擬似生体チップを用い、がん細胞が自身の寸法より狭い領域を通り抜ける際の振る舞いを調べた。 微小擬似生体チップとしては、図2に示したT字型のガラスマイクロ流体構造に、パンパイプ型のポリマーナノチャネルアレイを集積化したものを用いた。ポリマーナノチャネルの幅は900 nmであり、観察に用いたがん細胞(ヒト由来前立腺癌:PC3)の平均寸法数十μmと比較するとはるかに狭い。図6に、ポリマーナノチャネル中をがん細胞が移動する様子を、光学顕微鏡で観察した結果を示す6)。がん細胞は図面下方より、左から3番目のナノチャネル(チャネル長11μm)に侵入し、反対側(図面上方)に通り抜けようとしている(図6(a))。25分後、がん細胞が完全にナノチャネルを通り抜けた後、分裂を生じる(図6(b))。細胞の分裂は、がん細胞にとっては一般的な現象である。 さらにがん細胞の核や細胞体を蛍光タンパク質で染色し、ナノチャネルを通り抜ける際の変形の様子を共焦点蛍光顕微鏡により観察を行った10)。図7(a)に、細胞核のみを赤色蛍光タンパク質で染色したがん細胞が、ナノチャネル中を移動している様子を観察した結果を示す。核がナノチャネル内でその形状を大きく変形させ、50μm程度伸長して移動していることを確認した。核に加えて、細胞体を緑色蛍光タンパク質で染色し、その移動の様子を観察した結果を図7(b)に示す。細胞体は、核よりさらに伸長し、核も細胞体内部で変形していることを確認した。 複数のがん細胞のナノチャネル中での振る舞いを観察することにより、以下の知見を得た。(1) がん細胞は自身謝 辞 の寸法(〜数十μm)より1桁以上狭いサブナノメータ幅の領域を通り抜けることが可能である。(2) ナノチャネルを通過したのちも100%のがん細胞は生存しており、活性を保っている。(3) 細胞核はナノチャネルを移動中その形状を大きく変形させ、50μm程度伸長するが、変形による損傷は生じていない。(4) ナノチャネルを通り抜けた後も分裂というがん細胞の機能を維持おり、かつ分裂の生じる確率は移動前と変わらない。 明材料に多光子吸収を誘起でき、付加加工、除去加工、無変形加工の異なる形態の3次元加工を実行することができる。本研究では、超短パルスレーザ3次元加工の高度化を図ることを目的とし、異なる形態の3次元加工技術を組み合わせた複合超短パルスレーザ3次元加工技術の開発を行った。開発した技術により、ガラス3次元流体構造内部に3次元ポリマーナノ構造体を集積化させ、微小擬似生体バイオチップの作製を行った。作製したバイオチップは、がん細胞の転移メカニズムの解明のための研究に応用し、いくつかの新しい知見を得た。さらに、本研究ではタンパク質の3次元光造形技術の開発も行った。ガラス3次元流体構造内部に集積化する3次元ナノ構造体を、ポリマーからタンパク質に置き換えることにより、より生体の機能を模したバイオチップが実現され、がん細胞の転移メカニズムの解明のみならず、多様な医学・生理学研究に応用されることが期待される。 本研究は、公益財団法人天田財団平成29年度重点研究開発助成Aグループ研究(AF-2017201)を受けて遂行されたものであり、ここに深く感謝の意を表する。また本研究− 78 − (a)(b)
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