助成研究成果報告書Vol33
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キーワード:超短パルスレーザ,ナノ周期構造,細胞伸展方向制御 機械的性質に優れることから人工関節などの生体用インプラント材料として最も広く用いられている.しかしながら,Tiは金属材料であるがゆえに,材料表面へ自発的に骨成分を形成することができない生体不活性な材料であるため,人工関節を人体に埋入した際,骨が完全に固定されるまでには数ヶ月以上を要する.高齢化社会が問題視されている我が国にとって,早期の骨再生は必須の課題であり,Ti表面への新機能付与が必要である1). ここで.Ti表面への早期骨形成を実現するための新機能付与の一種に,骨芽細胞が伸展する方向を一方向に制御する細胞伸展方向制御(細胞配向性の付与)がある2).骨折時における人工関節上での骨再生過程について着目すると,最初の数週間で人工関節上において骨密度が増加し,その後,数週間で生体骨の強度が必要な方向に骨配向性が生じ,骨再生が完了する2).ここで,人工関節に対して予め骨配向性を付与することができれば,骨密度が増加した段階で骨配向性の付与が完了していることになるため,早期の骨再生が実現可能となる. の一種である.ここで,細胞伸展には,細胞の接着斑と基板の表面形状との関係が重要であると考えられている.一般的に細胞の大きさは数10 µm程度であるのに対して,接着斑の大きさや幅は数10 nmから数100 nm程度である3).すなわち,図図1に示すように,優れた配向性を有する細胞伸展方向制御を実現するためには周期や深さのスケールが数10 nmから数100 nmである周期的微細構造(ナノ周期構造)の形成が有効である可能性がある. J. luら4)は,プラズマドライエッチングによりTi表面にナノ周期構造を形成できることを示している.本手法においては周期750 nm~10µmを有する表面形状を得ることができるが,エッチング処理を行う上で複数の工程を要する.また,骨芽細胞の細胞伸展方向性制御に有効な表面形状については未だ明らかになっていない. 筆者らは,ナノ周期構造の形成には超短パルスレーザが有効であると着想した.超短パルスレーザ光を材料表面に集光照射すると,レーザ照射スポット内部に自己組織的にナノ周期構造の形成が可能である.ナノ周期構造は金属5)1.研究の背景と目的 チタン(Ti)やTi合金などのTi系金属材料は耐食性やTi系金属材料表面で細胞伸展方向制御を行うためには,材料表面へ周期的な溝形状を形成することが有効な手段岡山大学 大学院自然科学研究科 (平成29年度 奨励研究助成A AF-2017239) 助教 篠永 東吾 や半導体6)などの様々な材料に形成することができる.さらに,形成される溝方向は,レーザの偏光に対して垂直な方向に形成される場合が多いことから,集光スポットの走査中に偏光方向を制御することで溝方向の制御も比較的容易に行うことができる. レーザによりナノ周期構造が形成されることが発見されて以来,その形成メカニズムについては現在も多くの議論がなされている.金属に対するナノ周期構造の形成メカニズムの1つにレーザ誘起表面プラズマ波に起因するといった報告がある7).レーザ誘起表面プラズマ波はレーザ波長,パルス幅,レーザ強度などのレーザ照射パラメーターによって変化すると予想されるため,適切なレーザ照射パラメーターによりナノ周期構造の表面形状を制御できる可能性がある.一方で,実際のインプラント表面では,電解研磨を行った鏡面だけではなく,機械研磨面などを使用している場合がある.すなわち,生体材料表面の加工面性状は用途に応じて様々であり,それらの加工面は形成するナノ周期構造の形状に影響を及ぼすと考えられる. 本研究では.レーザ誘起ナノ周期構造による高付加価値生体材料の創成を目指し,超短パルスレーザ光によりTi基板上へ形成されるナノ周期構造の表面形状制御を試みた.そして,細胞配向性の向上に有効な表面形状としてナノ周期構造の周期,深さおよび連続性に着目し,それらが図1 細胞伸展方向制御とナノ周期構造の表面形状 − 433 −レーザ誘起ナノ周期構造の表面形状制御による 高付加価値生体材料の創成

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