助成研究成果報告書Vol33
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キーワード:レーザーアブレーション,時間分解X線分光,レーザー誘起衝撃波 討[3]が進んでいる一方,実験的な調査は未だ十分に進んではいない.しかしながら,レーザーピーニングは,高い安1.研究の目的と背景 レーザーピーニングは,パルス幅が数十ナノ秒以下のパルスレーザーを金属材料の表面に集光照射することによりアブレーションを生じさせ,その反作用として生じる衝撃応力波を利用してピーニング処理を行う技術である.発生した衝撃波により金属材料表面で塑性変形が生じ,圧縮残留応力の付与や加工硬化などが引き起こされる.その結果,疲労強度が向上し,応力腐食割れの発生や進行が抑制される.レーザーピーニングは,ショットピーニングに代表される他のピーニング処理と比較し,より深い領域まで残留応力を付加できることや,制御性に優れることなどから,高い安全性が求められる航空産業や原子力産業を中心に利用が広がっている. レーザーピーニングの有効性そのものは,さまざまな材料へのレーザー照射実験や,実構造物への適用を通して揺るぎないものとなっている[1, 2].しかしながら,残留応力付与や微細構造変化などレーザーピーニング効果の評価は事後観察によるものがほとんどであり,ピーニング効果の形成メカニズムは未だ十分に解明されていない.そのため,レーザー照射条件においても経験則に依る部分が大きく,処理条件の最適化がなされているとは言い難いのが現状である. レーザーピーニングのメカニズムが未だ十分に解明されていない理由として,その塑性変形過程が静的な荷重条件におけるものと大きく異なることが挙げられる.ひずみ速度が10-1 /s程度の静的な荷重条件における塑性変形過程は,付与される応力場に追随・同調して転位に代表される欠陥の生成・運動が生じる准平衡過程である.一方,パルスレーザー誘起の衝撃波を利用して塑性加工を加えるレーザーピーニングプロセスでは,ひずみ速度は105 /s以上にも達する.このような超高ひずみ速度変形下では,降伏応力が静的荷重時と比較し数倍も大きくなるなど,変形挙動が大きく異なることが知られている.これは,塑性変形を支配する転位の運動速度より,応力・ひずみを伝える衝撃波の伝播速度が早くなることに起因しており,転位の運動は急激な応力場変化に対する時間緩和現象として塑性変形に寄与することになる.このような変形機構を解明するためには,km/sオーダーの衝撃波速度で伝播する応力・ひずみの時間変化過程を明らかにする必要があり,分子動力学法などを用いた数値シミュレーションによる検熊本大学 パルスパワー科学研究所 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017231) 准教授 川合 伸明 全性が求められる構造体の表面強化技術として重要なだけでなく,非接触処理・局所処理といった特徴と部品の軽量化・小型化の背景とが相まって,小型で薄い金属部品の高強度化技術としても期待されており,そのプロセスの最適化が強く望まれている.また,レーザー誘起の塑性変形現象は,パルスレーザーを利用した材料合成や加工・成形など,様々なレーザープロセシングの技術発展においても重要な要素であり,レーザー誘起衝撃波による塑性変形機構の実験的解明は重要な技術課題であるといえる. 以上の背景から本研究では,放射光パルスX線とパルスレーザーを同期させることによる,ポンプ・プローブ型のナノ秒時間分解X線回折実験を行い,パルスレーザー誘起衝撃変形に伴う格子ひずみおよび微細構造の時間変化過程のナノ秒時間分解で明らかにし,レーザー照射条件や物質(結晶構造)の違いが塑性変形過程に与える影響を評価することにより,パルスレーザー誘起衝撃変形における塑性変形ダイナミクスを実験的に検証することを目的とする. 2.研究方法 本実験における時間分解X線回折実験は,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光施設であるPF-ARのNW14Aビームラインで行った.図1にNW14Aビームラインに構築されたポンプ・プローブ型時間分解X線分光システム[4]の概略図を示す.同システムでは,X線パルスセレクターとX線シャッターにより放射光X線パルス列から1パルス(パルス幅100 ps)のみを取り出すことが可能となっている.NW14Aビームラインに設置されている装置郡は,PF-ARの蓄積リングを周回している電子バンチの周回周波数を基準に制御されており,ポンプ光となるパルスレーザーとX線パルスとのディレイ調整は100 ps以下のジッターで任意に設定可能となっている.X線のエネルギー値およびエネルギー幅も調整可能である.本研究ではピークエネルギー値を16 keVとし,多結晶金属を対象とした実験ではエネルギー幅dE/E=1.5%の単色X線を,単結晶材料を対象とした実験ではエネルギー幅dE/E=15%の白色X線を用いた.X線は試料面に対して垂直に照射され,その照射サイズは水平方向0.45 mm×鉛直方向0.25 − 381 − ナノ秒時間分解X線回折測定による レーザーピーニングメカニズムの解明

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