助成研究成果報告書Vol33
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キーワード:レーザー加熱,ガラス,多孔質,成形 1.研究の目的と背景 酸化物ガラスは,可視から近赤外波長域の透明性が高く熱的・化学的・機械的耐久性に優れることから,古くからレンズや窓ガラスとして用いられてきた.近年では光ファイバやディスプレイ用基板として情報化社会を支える基幹材料となっている.光学用途にガラスが広く利用される理由として,優れた光学特性と耐久性に加えて良好な賦形性が挙げられる.例えば,板ガラスの作製法であるフロート法では,高温で溶融したガラスをSn金属融液上に濡れ広がらせることで表面が滑らかで厚さの均一な板材が成形される.また,レンズの作製では,軟化温度付近まで加熱したガラスに鋳型を押し付けて形状を転写するモールドプレス法が利用されている.このように,新しいガラス成形プロセスは次世代の社会を支えるキーテクノロジーとなってきた. 近年,容器を用いずにガラスを溶融する無容器溶融法が開発され,高い屈折率や高い強度を持つ新規ガラスが開発されている1,2).空中に浮遊させた原料を炭酸ガスレーザーで加熱して,非接触で融液を形成し不均一核生成を抑制しながら急冷することで,通常の溶融急冷法では結晶化により失透してしまう組成でも透明なガラスが得られている.非接触でガラスを成形する技術は,ガラスの機能向上や新たな用途への展開を開拓するものと期待される. 透明なガラスを光で加工するにはガラスに光を吸収させる必要があり,(1)ガラスの基礎吸収波長域である遠赤外または紫外レーザーを用いる,(2)超短パルスレーザーによる多光子吸収を用いる,(3)ガラスに光吸収イオンを微量添加する,といった方法が採られている.(1)はガラス自身の吸光係数が大きく効率よくガラスにエネルギーが伝達できる.ただし,遠赤外や紫外レーザーは,他の材料の吸収係数も高く,光学系にはカルコゲナイドやフッ化カルシウムなどの特殊な光学材料を要する.(2)では時間的空間的に光子を集中させ多光子吸収によりガラスに光を吸収させる.微小スポットで非線形光学効果が誘起され,ガラス内部に光の波長以下のサイズの微細加工を施すことができる3).(3)ではガラスに遷移金属や希土類金属イオ東京工業大学 物質理工学院・材料系 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017228) 助教 岸 哲生 ンを添加し,これらのイオンにレーザー光を吸収させ非輻射緩和による熱をガラスに伝える.連続波(Continuous-Wave: CW)レーザーをガラスに集光照射し走査することで,ガラス表面を加熱して単結晶ラインが形成されている4).これまでのガラスのレーザプロセッシングではmmサイズ以下の試料の加熱・溶融やµmサイズ以下のスポットの改質に関する研究が広く行われている.最近のレーザー技術の発展は目覚ましく,レーザーの高出力化・低価格化が急速に進んでおり,これに伴ってバルクガラス製造技術においても新たなレーザプロセッシングが重要な位置を占めていくものと予想される. 我々はこれまでにレーザー局所加熱(Localized-Laser Heating: LLH)法によるガラス微小球作製技術を開発してきた5–7).Nd3+やYb3+イオンを微量添加したガラス微粉を透明基板に静置し近赤外の高出力CWレーザーを集光照射して,基板を加熱せずにガラス微粉のみを加熱・液滴化することでガラスを真球状に成形できる.電気炉などによる均一加熱では,ガラス液滴は濡れ性に従って基板上に濡れ広がるが,LLH法では接触面のない球体を基板上で形成できる.作製したガラス微小球は,Whispering Gallery Mode(WGM)と呼ばれる光共振現象により,低い閾値でレーザー発振を示した.これは作製したガラス微小球が高い真球性を有していることを意味する.平坦面が存在しないことから,ガラスは基板と接触せずにガラス転移点Tg以下の温度に冷却されたことがわかる.LLH法による真球の形成メカニズムは明らかではないが,液滴内部の温度差によるマランゴニ対流により液滴と基板の間に極薄い空気層が生じ,液滴と基板が非接触となっているものと考えられる.LLH法では表面張力の温度勾配による対流により,ガラスと基板の間に空気層が保持されるように,熱源となる添加イオンの種類や濃度の選択,レーザー照射位置などの作製パラメータを高度に制御しなければならず,安定的に非接触状態を維持するのは容易ではない. 本研究では,LLH法において安定して非接触状態を実現し,新たなガラスの成形技術の基礎を確立することを目的とした.かつて,新しい板ガラス成形法として発明され − 365 − 多孔質基板を用いたレーザー局所加熱法による ガラスの非接触成形技術の開発

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