1.研究の目的と背景 キーワード:レーザメタルデポジション,炭化物,高硬度肉盛層 近年,高張力鋼板やCFRPといった加工困難な高強度材料が自動車業界をはじめ多くの業界で利用されており,それらを加工するための金型や工具の耐久性向上が強く望まれている.金型などの耐久性を向上させるためには,耐摩耗性に優れた材料を利用する必要があるが,こうした材料は一般的に高価であるため,金型全体に適用した場合にはコストが高くなるといった課題がある.一方,耐摩耗性を付与するための表面処理に関する技術開発も積極的に行われている.しかし,既存の表面処理には,処理層の厚さが薄い,皮膜と基材の密着力が弱い,特別な処理雰囲気を必要とする場合は処理対象物のサイズに制約が生じるといった課題があり,これらを解決する新たな技術の開発が望まれている. レーザメタルデポジション(Laser Metal Deposition,以下LMD)は,処理対象物の特定箇所に所望の素材粉末を供給しながらレーザを照射し,肉盛層を形成することが可能な表面処理技術である.大気中で処理できるため対象物のサイズの制約がほとんどない,基材との密着性に優れている,肉盛を繰り返すことで厚い肉盛層(0.1 mm ~ 数mm)を形成できるといった利点を有している.また,摩耗が激しい部位などの必要な箇所のみに肉盛することができるため,高価な材料の使用も必要最小限に抑えることができるという特長もある.このため,LMDは耐摩耗性を必要とする金型や工具の新しい表面処理技術として期待されている.特に,肉盛層のマトリクス(コバルト合金等)に硬度の高い炭化物(炭化タングステン等)を含有した肉盛層は,耐摩耗性に優れた理想的な肉盛層であり,LMDを利用することにより,このような肉盛層の形成も可能である. しかしながら,LMDを用いて高硬度の肉盛層を形成する場合,熱応力に起因する割れが肉盛層に発生しやすい地方独立行政法人 大阪産業技術研究所 加工成形研究部 部長 萩野 秀樹 加工成形研究部 主任研究員 山口 拓人 加工成形研究部 主任研究員 四宮 徳章 技術サポートセンター 主幹研究員 小栗 泰造 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017226) ことが大きな課題となっている.先述の炭化物を含有した肉盛層をLMDで形成する場合,溶融したマトリクスの温度が炭化物の融点以下であっても,炭化物の表面がマトリクスの融液と接していると炭化物の溶出が起こり,肉盛層のマトリクスが硬化し,割れ感受性が高くなることが知られている1).耐摩耗性に優れた肉盛層を形成するためには,炭化物を溶出させることなくマトリクスになる金属のみを溶融させる必要があるが,実現可能なLMDの条件範囲は狭く,安定した肉盛層の形成は困難である.また,処理対象物を数百℃に予加熱した後,肉盛することも検討されているが,作業が煩雑なため実用化の障壁となっている.予加熱を行うことなく割れのない高硬度の肉盛層を形成する技術の開発が切望されている. 本研究では耐摩耗性に優れた高硬度肉盛層を得るために,硬度の高い炭化物を含んだ肉盛層をレーザを用いて形成する新しい表面処理技術の開発を目的とした.マトリクスの融液と炭化物が接している場合,先述のとおり,炭化物が溶出し,割れの要因となる.そこで,本研究では,マトリクスと炭化物の接触を避けるため,めっきを施した炭化物の利用を試みた.肉盛時に,めっき成分がマトリクス中に溶出したとしても,炭化物の表面がマトリクスの融液と接触する前に凝固を完了させることができれば,炭化物の溶出は抑制可能と考えられる. はじめに,肉盛層の割れ抑制に及ぼす,めっきの効果について検証した.肉盛層のマトリクスは,コバルト基合金とし,炭化物には表面にニッケル系のめっきを施したものを用いた. LMDのパラメータには,レーザパワー,肉盛ヘッド送り速度,マトリクスとなる粉末,および炭化物の粉末供給量がある.これらのパラメータには密接な相関があり,最適条件を決定するためには多くの実験が必要となる.また,粉末にめっきを施しても,パラメータ(以下,加− 357 −レーザメタルデポジションによるめっき複合炭化物を含有した 高硬度肉盛層形成技術の開発
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