キーワード:フェムト秒レーザ,酸化鉄ナノ粒子,粒径制御 3.研究成果 3・1 炭素を含まない酸化鉄ナノ粒子の作製7) がFeCpはヘキサンにしか溶解しない.フェムト秒レーザパルス(波長0.8 μm,パルス幅40 fs,エネルギ0.4 mJ,繰り返し1 kHz)を合成石英製の光学セルに入れた溶液に集光照射した.作製した粒子の形態を透過型電子顕微鏡(TEM)により観測し,粒径分布を解析した.さらに制限視野回折(SAED)や超高分解能観測により結晶構造を,エネルギ分散型X線分析(EDS)により元素分布を測定した. 1.研究の目的と背景 図1 酸化鉄ナノ粒子の原料に用いた有機金属錯体 本研究では有機金属錯体溶液のレーザプロセッシングによって酸化鉄および純鉄ナノ粒子を作製できること,炭素を含まない酸化鉄を作製するには溶媒の選択が重要であることを明らかにした.成果はChemPhysChem誌に発表し(参考文献7,謝辞明記),「フェロセン分子の中心にある鉄原子が鉄ナノ粒子を形成し,脱離した配位子は炭素凝集体として分離される」を表したイラストがInside front coverに選出された(図2). 原料にFeCp,溶媒にヘキサンを用いた.生成したナノ粒子のTEM像(図3a)からコントラストの高い球状粒子と不定形の凝集体が生じたことがわかる.照射30 分で平均粒径は一定となり(図3b),120 分照射後の平均粒子径は33±18 nmであった(図3c).紫外ナノ秒レーザ(波長355 nm,パルス幅8 ns,エネルギ45 mJ,繰り返し10 Hz)を照射しても鉄ナノ粒子が生成した.90分照射ではフェムト秒レーザと同様に平均粒径は約30 nmであったが,120分照射で平均粒径は47±28 nmに増大した.さらに,粒径分布も広く,直径が最大で200 nmの粒子も生成した.紫外ナノ秒と近赤外フェムト秒レーザのいずれを用いても平均粒子径は30 nm以上であり,原料濃度を高くすると粒径がさらに増大した.図3aから明らかなように炭素凝近年,液体に浸漬した金属片にレーザを集光してナノ粒子を作製する「液中レーザアブレーション」が盛んに研究されている1).一方,我々は液体にフェムト秒レーザを集光して生じる高密度活性種(ヒドロキシルラジカル,電子他)と分子との化学反応によってナノ粒子を作製してきた.この手法は原料選択の幅が広く,液中レーザアブレーションでは困難であったナノ粒子の表面特性や元素組成の制御が可能な新たなレーザプロセッシングである.これまでに直径10 nm以下の親水性炭素ナノ粒子が作製できること2),親水性と疎水性炭素粒子の作り分け3),環境汚染物質である有機塩素化合物を,塩素を含まない疎水性炭素粒子として水中から分離できること4),高密度にフッ素を含むにも関わらず水に分散する炭素ナノ粒子が作製できることなど5)を報告した. 本研究は,温熱療法などに用いられる酸化鉄ナノ粒子に注目した.鉄ナノ粒子の超常磁性や生物学的適合性などの特徴を発揮するには,粒子の大きさ,組成,そして表面の状態などが重要になる.液中レーザアブレーション(有機溶媒中に浸漬した鉄の小片にパルスレーザを照射)でも磁性ナノ粒子を作製できる6).しかし,粒径が比較的大きいこと,粒子が炭素を含むこと,そして溶媒に由来する炭素凝集体が多く生成することが課題として挙げられる.一方,通常の化学的手法による合成法では,粒子径や分散性を制御するために界面活性剤などの添加が必要となるが,これらの添加剤はナノ粒子内部や表面に不純物として残留する可能性がある.本研究は金属そのものではなく有機金属錯体を原料とする新たな金属ナノ粒子のレーザプロセッシングによって上に挙げた従来法での問題点を解決することを目的とした. 2.実験方法 原料に用いた有機金属錯体のフェロセン(FeII(C5H5)2,以下FeCpと略す)と鉄(III)アセチルアセトナート(FeIII(C5H7O2)3,以下FeAcと略す)の構造を図1に示す.有機溶媒であるノルマルヘキサン(C6H14,以下ヘキサンと記す),水,そしてヘキサンと水を混合したものを溶媒に用いた.ただし,FeAcはヘキサンにも水にも溶解する大阪市立大学 理学部 化学科 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017224) 教授 八ッ橋 知幸 − 349 −有機金属錯体溶液のレーザプロセッシングによる 金属ナノ粒子の合成法研究
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