助成研究成果報告書Vol33
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4.結論 謝 辞 参考文献 この結果は,図4で示した炭素濃度分布の結果と良い一致を示しており,浸炭が認められる領域のみ組織が変化していることがわかる.ただし,表面から30 m以上深い箇所ではマルテンサイト組織が認められるが,それよりも浅い箇所には残留オーステナイトが認められる.これは,表面付近は炭素濃度が高いためで,このままでは高い硬度は得られないが,サブゼロ処理などを施せばマルテンサイト変態が起こり,十分な硬さが得られると考えられる. ところで,本技術の特長は,処理時間の大幅な短縮だけでなく,それにともない少量のサンプルにも柔軟に対応でき,また局所的な表面硬化にも適している点である.すなわち,既存のガス浸炭や真空浸炭用の設備は,処理に長時間を要するため,一度の処理で多くのサンプルを処理できるよう大型の設備であることが多い.そのため,処理量に依らず多くのガスやエネルギーを消費するため,少量生産 (a)マクロ写真 (b)表面部やや拡大写真 (C)表面部拡大写真 図6 640 Wで照射したサンプルの断面組織写真 には適さない.また,サンプルを浸炭炉に入れれば,サンプルは全体的に高温に加熱されることになるため,製品によっては熱処理歪みが問題になることも想定される.近年は,物の付加価値を高めるがゆえに,いわゆる一点物に近い製品の需要が高まる傾向にある.このように,多品種少量生産が求められる状況においては,既存の浸炭処理設備では対応が難しいことも多く,本開発技術は,世の中のニーズに弾力的に対応することができる. 本研究のような浸炭処理の超高速化あるいは多品種少量生産への対応に注目した研究開発は,国内外共に非常に少ないが,国内においては高周波加熱を利用した高速浸炭に関する報告がある4).その報告によれば,不活性ガスと炭化水素ガスの混合ガス雰囲気下において,高周波加熱により1200℃程度まで加熱すれば,大幅に処理時間を短縮化することが可能となる. 高周波やレーザを利用した高速浸炭は,浸炭のメカニズムは基本的に同様と考えられるが,高周波加熱の強みは,一度に比較的広い範囲を浸炭できることである.しかしながら,高周波ではコイルを近付けにくい箇所は浸炭されにくい.疲労特性の向上は,浸炭処理の目的の一つであるが,疲労破壊は窪み部等の応力集中しやすい箇所から始まることが多い.つまり,高周波加熱では,疲労き裂が発生しやすい箇所は浸炭しにくいことも想定される.一方,レーザであれば,窪み部等の微細領域も照射でき,問題なく浸炭できることが予想される.このように,お互いの利点を活かせるよう適用分野によって両技術を使い分け,熱処理業界が抱える課題解決の一助となれることを期待する. 本研究では,容器内にサンプルを置き,容器を密閉して浸炭雰囲気に制御し,容器外からレーザを照射して,容器内のサンプルの浸炭を試みた.レーザ照射条件の最適化により,処理速度を著しく高速化できる浸炭技術の礎を確立することができた.今後は,この技術をさらに高度化し,より実用的なレベルへと発展させ,環境負荷軽減に大きく貢献できる浸炭技術の構築を目指す. 本研究は公益財団法人天田財団からの一般研究開発助成(AF-2017216)によって実施されました.ここに深く感謝の意を表します. 1)M. Grenier, D. Dubé, A. Adnot, M. Fiset:Wear, 210 (1997) 127. 2)小野守章,海津享,真保幸雄,樺澤真事,佐藤章仁,戸塚和弘,中村真一郎,玉田健二:溶接学会論文集, 14, 4 (1996) 660. 3)石神逸男, 横山雄二郎, 三浦健一, 浦谷文博, 星野英光:材料,49 (2000) 1235. 4)戸田一寿,Mech. Surface Tech., 6 (2018) 32. − 318 −

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