キーワード:浸炭,レーザ,熱処理 C3H8ガス(プロパンガス)を封入し,浸炭雰囲気に制御した.その後,容器外からレーザを試験片に照射し,レーザ1.研究の目的と背景 鉄鋼材料への浸炭焼入処理は,靭性を損なうことなく疲労強度等の機械的性質を改善できる,古くから利用される熱処理技術である.浸炭処理は,多くの機械部品において採用されているが,工業的にはガス浸炭と真空浸炭の二つの手法が多く用いられる. ガス浸炭は,搬送ガスに少量の炭化水素ガスを添加した雰囲気中で,所定の温度で適当な時間保持することで行われる.炭化水素ガスの添加量により,簡単に表面の炭素濃度を調節できるが,処理に長時間を要し,多量の余剰ガスも発生する.通常,余剰ガスは燃焼して処理されるため,多量の温暖化ガスが発生し,熱処理業界では大きな課題となっている. 一方,真空浸炭は,高温・減圧下で処理品と炭化水素ガスを分解接触させることにより浸炭させる手法である.真空浸炭は,使用ガス量が少なく,酸化性ガスを含まないことから粒界酸化が生じない.さらに,ガス浸炭よりも高温で処理できるため,浸炭時間を短縮できる.しかしながら,既存の設備では1100℃以上で処理することは難しく,処理時間の短縮には限りがあるため,省エネ化や高効率化が実現できる新たな技術開発が期待されている. レーザプロセスは,微細加工や溶接を目的に利用されることが多いが,瞬間的な加熱と冷却を利用した熱処理技術 としても注目されている.レーザ照射による加熱は,局所的かつ瞬間的であり,処理品の周囲の物体を著しく加熱することがないため,既存の熱処理設備では実現不可能な高温域まで処理品を加熱することも可能である.したがって,レーザプロセスを浸炭処理に応用展開できれば,浸炭処理技術の省エネ化や高効率化も期待できる.そこで本研究では,浸炭雰囲気制御下でのレーザ照射条件の最適化により,既存の手法よりも大幅に処理時間を短縮させ,環境負荷軽減に大きく貢献できる先駆的浸炭処理技術を確立することを目指した. 2.実験方法 2・1 実験装置の考案 本研究では,混合ガスではなく,少量の炭化水素ガスのみを使用した浸炭を目指した.使用する実験装置は,M. Grenierら1)がチタン表面への硬化層形成を試みた実験方法を参考にし,真空浸炭を模擬した装置を考案した. 図1に,本研究で作製した実験装置の模式図を示す.浸炭は,雰囲気を制御するための炉(容器)が必要となる.大阪産業技術研究所 和泉センター (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017216) 主任研究員 平田 智丈 一方,レーザは,透明の物体を透過する特徴を有するため,使用する容器が透明であれば,熱源となるレーザ装置を必ずしも容器内に設置する必要はない.また,一般的な浸炭は,炉材の選定や金属組織の熱的安定性に起因して900~1100℃で処理されることが多いが,処理温度が1200℃を超えると,理論上は浸炭時間を大幅に短縮できることが予測される.さらに,レーザが処理品のみを瞬間的に加熱するだけならば,雰囲気制御用の容器には,高価な耐熱材料は必要ないと考えられる.そこで本研究では,雰囲気制御用の容器にはプラスチック材料を使用し,レーザを外部から照射できるよう,一部に石英ガラス製の小窓を設けたものを準備した. 容器には,浸炭処理に要する炭化水素ガスの封入や容器内の排気を目的に,複数のバルブを設けた.また,容器内の炭化水素ガスの濃度を制御するために,真空計を装備した.レーザ照射部の温度は,放射温度計を用いてガラス窓越しに測定した.ただし,放射温度計で金属材料の表面を測定する場合,放射率の違いによる測定誤差が生じる恐れがあるため,本研究では波長の異なる二つの赤外線を利用した二色モードで温度を測定した. 2・2 実験条件 浸炭に使用した材料は,SCM415である.直径50 mm の棒材を厚さ約3 mmに切断し,さらに外周の一部を切断後,表裏を研削して3mm厚の小判状の試験片を準備した.使用したレーザ装置は,光源は半導体レーザ,波長は940 nm,照射スポットは約5 mm×約5 mm四方で,レーザ出力を600~800 Wの範囲で変化させた. 試験片は,透明な容器内に設置し,容器内を排気した後,図1 実験装置模式図 − 315 −レーザ照射条件の最適化による高速浸炭処理技術の開発
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