図8に、13分岐の回折ビームスプリッタを用いて光学系の集光面F2に形成したビームアレイを示す。−13次から+13次まで、強度に分布はあるが、ほぼ均一なスポット径(18 μm)をもつ27本の集光ビームが長さ3.2 mmにわたり並んでいる。集光ビームの間隔は0.12 mmである。この結果は、開発した光学系を用いれば1) 少なくとも長さ3.2 mmのビームアレイをつくれること、2) 少なくとも直径3.2 mmの円の中に縦横に並ぶビームアレイをつくれること、を意味する。±14次の外側では、回折角が大きくなるとともに、集光ビー図8 開発した光学系に時間幅20 fsのパルスビームを通して得られた集光ビームアレイ. の近傍に定めることができる。一方、回折角θd = 2.9゜(▲, △)では、非点隔差が~0.5 mmまで大きくなり、最小錯乱円も30 μmまで拡がった。光軸外の集光ビームに生じる非点隔差は、ハイブリッドレンズを構成する平凸レンズに起因する。 5・2 集光点におけるパルス幅 集光面 F2 で取得した相関波形を図7に示す。図7(a)は光学系に通す前のパルスの相間波形、図7(b)−(d)は回折角θdが 0.0゜, 1.7゜, 2.9゜の条件で光学系にパルスを通した後で得られた相関波形である。これらの結果は、集光点でのパルス波形が回折角によらずほぼ同じであることを示唆している。相関波形からパルス幅を推定するために、電場の複素包絡線が次式で表されるガウス型パルスを仮定した:■■■■■■■exp■■■2ln2■■1■■■■■■/■■■■■。ここで、τpはパルス幅(半値全幅)、aはチ再現するようにτpと■ を求めると、回折角θdによらず、ャープパラメータである。この式を用いて相関波形を比較のために、アフォーカル系を一対の屈折単レンズで構成したプロトタイプから得た相関波形を 図求めると、τp = 35 fs、a = 1.4となった。プロトタイプの相関波形には主ローブの外側に副ローブが認められる。この副ローブはパルスフロント歪によるものであり、ハイブリッドレンズを用いた場合は現れていない(図7(b)−(d))。測定では、波形幅が最小となるようにチャープミラーにおけるパルスビームの反射回数を調整した。屈折単レンズの材料が高分散ガラスのため、−3400 fs2という大きなプリチャープを要した。 以上の結果が示すように、ハイブリッドレンズを用いて色収差補正と分散補償を行うことにより、ビームアレイ生成光学系の空間分解能を制限していたパルスフロント歪が除かれる。したがって、光学系の空間分解能と時間分解能はどちらも限界まで向上する。このことは時間幅が20 fsよりも長いパルスビームに対しては無条件に言える。 5・3 ビームアレイの長さ 前述の評価では、ブレーズ回折格子の+1次回折光を使い、回折角θdが0.0゜(光軸上)と1.7°(光軸外の高さ1.5 mm)の条件で、時空間の波形歪がない集光7(e) に示す。この相関波形を再現するようにτpと■ をφ 17.6 μm 3.23 mm − 313 −τp = 22 fs、a = 0.30となった。このことから、集光面F2における集光パルスはほぼフーリエ変換限界であり、不要な伸びはないと言える。 パルスビームが得られた。ここでは回折ビームスプリッタで時間幅20 fsのパルスビームを分岐してビームアレイをつくり、波形歪がない集光ビームが並ぶ領域の広さを詳細に調べる。 ムの形状は水平方向に少しずつ伸びている。ハイブリッドレンズに残る非点収差のせいで、鉛直方向と水平方向で集光位置がずれるからである。図中、ビームアレイ中央の0次光の強度が突出しているのは、実験に使用したスプリッタの設計波長532 nmが超短パルスの中心波長780 nmからずれているためである。 本研究では一方向にビームを分岐する回折ビームスプリッタを使ったが、縦横二方向にビームを分岐する回折ビームスプリッタも使える。スプリッタを液晶空間光変調器に替えれば、表示データの更新だけで、さまざまな集光ビームパターンを形成できる。 6.結論 本研究を通じて、時空間の波形歪がない超短パルスビームアレイをつくる光学系の完成に目途をつけた。われわれが開発した光学系の特徴は、回折系とアフォーカル系をカスケード接続した配置でビームアレイをつくる点、屈折面と回折面を備えたハイブリッドレンズでパルスフロント歪を補償する点にある。この光学系を用いれば、実用に足りる長さあるいは広さを有する超短パルスビームアレイを供給できる。 本研究の成果により超短パルスレーザーを用いたナノ・マイクロ加工技術の実用に向けた議論ができるようになった。今後は、パルス波長に合わせて設計した回折ビームスプリッタをビームアレイ生成光学系に装着し、超短パルス増幅システムを用いたレーザー加工へ試して、加工精度と生産性の評価を行う予定である。開発技術の価値はその使いみちで決まると考えており、産業界のニーズを先取りしつつ、既存プロセスの代用ではない、付加価値の高い加工用途を開拓したい。
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