図1 回折ビームスプリッタで分岐された超短パルスビームに生じる時空間の波形歪. 東洋大学 理工学部 機械工学科 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017215) 教授 尼子 淳 キーワード:超短パルスレーザー,ビームアレイ,回折光学 1.研究の背景と目的 超短パルスレーザーを用いた精密加工の技術が注目されている[1-3]。この技術が広く産業へ応用されるには、製造に求められる加工精度と生産性が同時に満足されなければならない。超短パルスの非熱特性を利用すれば金属からガラスまで様々な材料を高精度に加工できる。一方で超短パルス光源の高出力化が進み、パルスビームを分岐して材料の複数部位を並列に加工すれば、パルスエネルギーは無駄にならず、加工スループットは上がる。レーザービームを分岐する手段としては回折ビームスプリッタが簡便であり、ナノ秒パルスレーザーを用いた加工では量産技術として実用化されている[4]。こうした背景から、回折ビームスプリッタを応用した超短パルスビームアレイの生成法に関する研究が関心を集めている。 しかし、超短パルスビームを回折ビームスプリッタに通すとやっかいな問題がおこる。パルスの波長帯域が広いため、回折されたパルスの波形は時空間で歪んでしまう。図1に示すように、回折で生じる色収差によりパルスビームの空間強度分布が歪む。時間軸でながめると、色収差のせいでパルスのスペクトル幅が狭くなり、パルスは伸びる。その結果、加工スループットを左右するビームアレイの長さは制限される。~100fs程度のパルスの場合、光軸近傍のごく狭い領域にビームアレイをつくれば、パルス波形歪の加工への影響は小さい[5-9]。が、加工用途は限られる。ビームアレイを拡大する方法が研究されてきたが、パルス波形歪はとりきれていない[10-12]。回折ビームスプリッタの後ろに屈折レンズと二枚の回折レンズを置いたトリプレット光学系がMinguez-Vegaらにより提案されている。しかし、パルス波形歪が補償される回折角は小さく、回折角1.6°でパルスは28 fsから63 fsまで伸びる、との実験結果が報告されている[13, 14]。 本研究では、超短パルスレーザー加工への応用をめざし、時空間の波形歪が補償された超短パルスビームアレイをつくる光学系を開発する。実用には数本から数十本のビームを数mmの長さで並べれば足りる。光学系の設計と評価には時間幅20 fsのパルスを用いる。非熱特性を利用するにはパルスは短いほうが有利であるが[3]、パルス品質の安定性にも配慮が要る。パルス波形を歪せるふたつの要因―色収差と分散―をいかに除くかが開発の鍵となる。 2.ビームアレイ生成の考え方 図2に、われわれが提案するビームアレイ生成光学系の構成を示す[15, 16]。光学系の前段は回折ビームスプリッタ(DBS)と回折集光レンズ(DFL)から成る回折系であり、ここでビームアレイの横色収差を補正する。後段は一対のハイブリッドレンズ(HL1, HL2)から成るアフォーカル系であり、前段で発生した縦色収差を補正し、さらにレンズ形状を反映した不要なパルスの伸び(パルスフロント歪)を補償する。レンズ形状に依らないパルスの伸びについては、チャープミラー対でパルスに逆符号の伸びを与えて相殺する。回折ビームスプリッタで生じる角分散は必要に応じて位相差板(PP)で補償する。図中、F1は中間の集光面、F2は最終の集光面(加工エリア)である。集光面F2で、時空間の波形歪が補償された超短パルスビームアレイが得られる。 上記のハイブリッドレンズは正の焦点距離をもつ屈折レンズと負の焦点距離をもつ回折レンズから成る。前者は主にビームの伝搬方向を決め、後者は主にアフォーカル系の分散を調整する。屈折レンズと回折レンズでは、1) 色収差の正負が反対であり[17]、2) 位相波面に対するパルス波面の進み遅れの関係も逆になる[18]。この性質を利用すれば、ビームアレイ− 309 −精密加工へ用いる時空間波形歪が補償された 超短パルスビームアレイの生成法に関する研究
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