助成研究成果報告書Vol33
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図1 積層造形装置の概略 図2 純チタン粉末と積層造形物 3次元レーザ積層造形による頸椎椎間板インプラント材の作製技術 キーワード:レーザ積層造形,インプラント,低ヤング率 1.研究の目的と背景 (a) 装置外観 (b) 粉末供給部 2.1 試作した積層造形装置と積層条件 本研究では積層造形装置を自作した.その装置概略を図1に,積層条件を表1に示す.小スポット径レーザ照射装置には,ミヤチテクノス社製のYAGレーザマーカML–7064Aを使用した.レーザ出力は最大で50Wで,レーザスポット径は90μmである.この装置はレーザ制御ユニットとレーザ走査ヘッドユニットで構成されており,ダイオードレーザ(LD)を励起光源とした,スキャニング方式のレーザマーキング装置である.実験においてレーザは連続発振とした. 一般的な機械加工は切削や研削などの除去加工であるが,これとは逆の発想の付加加工(AM: Additive Manufacturing)が行われるようになってきた1-5).これは,CADデータに基づき粉末材料を薄く積層することで,最終的に直接製品を製造するものである.金属粉末に高出力レーザ(200W~400W)を照射することでほぼ100%密度の部品も製作可能となっている.この技術は,SLM (Selective Laser Melting)と呼ばれ,航空宇宙や自動車およびバイオ関係で既に実用化されている.特に,バイオインプラント製造では,患者固有の寸法に合わせて製造できることが期待されている. 高齢者人口比率が高い我が国では6),骨粗鬆症をはじめとする骨関節疾患の患者数が急激に増加しており,治療には人工物のインプラントが多く用いられる.インプラントに求められる機能は,(a)患部の複雑な3次元形状に対応できること,(b)骨との早期固定性が高いこと,(c)骨と機械的性質(ヤング率など)が近いこと,の3点が挙げられる.ここで,早期固定性向上のために,インプラント内部に微細構造を持ち,骨誘導を促すことも望まれる7).AMは課題(a)には十分対応可能である.また,課題(b)と(c)に対応するために,ストラット構造で内部に多数の小さな空洞(0.5mm~1mm程度)を設けた構造にすることが精力的に研究されている8).しかし,空洞を0.5 mm以下にすることは難しく,ヤング率は高くても7GPa程度にとどまっている. さて,金属の高いヤング率を低下させる別な方法として,焼結時に密度100%の緻密体とならないように,低出力レーザを用いて焼結体充填率を下げる方法も考えられる.しかし,このような研究は現在のところほとんど行われていない.頸椎では過大な荷重が作用しないので,焼結体の充填率が低いインプラントでも適用可能と考えている.現在この椎間板インプラントはプラスチックや金属で作製されているが,プラスチックでは強度的に弱い場合があり,また金属では高すぎるヤング率が応力遮蔽を引き起こす恐れもあるので,両者の中間の機械的性質を持つ,より良いものが求められている. チタンのヤング率は100 GPa以上であるが,骨のそれは0.5~30 GPaである.そこで,チタン製インプラントを低出力レーザによる多孔質体にすることによって造形物の等価ヤング率を骨のヤング率まで下げることが当面の目標である.本研究ではインプラントの機械的性質を改善するために,50Wレーザ照射装置を用いて最適なレーザ照射条件について検討を行った. 本研究成果については天田財団FORM TECH REVIEW 2018 Vol.28 No.1に掲載したので,内容的には重複する部分があることをご承知願いたい. 2.実験方法 新潟大学 自然科学系(工学部) 機械システム工学プログラム (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017211) 教授 新田 勇 − 287 −

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