助成研究成果報告書Vol33
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図1 レーザ走査パターンの説明図 2・2 試験片の観察および分析 1.研究の目的と背景 キーワード: レーザ処理,表面改質,チタン合金,歯科インプラント 虫歯や歯周病などが原因で天然歯を失った場合の治療には,これまでは入れ歯やブリッジを用いるのが一般的であった.しかし最近では,人工歯根の利用も盛んになってきている.その最大の理由は,人工歯根を用いて治療することにより,天然歯に近い咀嚼力や審美性が実現できるという大きなメリットがあるからである.しかしその反面,治療期間が長期に亘るというデメリットもある.実際,通常の人工歯根の場合には12週間以上,アパタイトコーティングされた人工歯根の場合にも,定着までにはおよそ8週間を要する. この点を解決するために様々な表面処理が提案され,その一部は実用化されている.例えば,アメリカのバイオホライゾン社のレーザロックシステムは,アバットメントの部分に微細な溝を形成することにより,歯肉との線維性の結合を実現している.このシステムの表面は,複雑な凹凸形状を有しており,そこに歯肉細胞やコラーゲン微小繊維が入り込んでインプラント体に絡みつくとされている.しかし,接着が完了するまでの数ヶ月の期間は,バクテリアなどに対して無防備となるため,その対策が必要とも言われている.またこれまでに,異なるレーザ焦点距離下におけるチタン合金に,銀を付与する一連の研究に取り込んだ.具体的には,硝酸銀水溶液に浸漬したチタン合金(Ti-6Al-4V ELI)に対し,レーザの焦点と基材表面の距離であるデフォーカスを変化させ,レーザ照射処理を施し,銀含有層を形成させたことが報告されている.そこで本研究では,レーザ処理のデフォーカスを固定し,浸漬液の濃度を変化させ,チタン合金(Ti-6Al-4V ELI)への銀の付与を試みる. 2.実験方法 2・1 試験片の作製 供試材にはチタン合金(Ti-6Al-4V ELI)を用いた.同材を直径15 mm,厚さ4 mmの円盤型試験片に機械加工した.その後,SiC耐水研磨紙(# 240,400,600,1200)を用いて,ディスク試験片の一方の端面を研磨した. レーザ装置には,Ybファイバーレーザを用いた.Ybファイバーレーザは増幅媒質に光ファイバーを使用した固体レーザの一種であり,ファイバー中にはコアであるYbがドープされている.従来のレーザと比べビーム品質に優れ,装置が小型で軽量であるといった特徴がある.レーザ光の波長は赤外域となる1064 nmであり,金属材料への吸収率が50%前後となるため,入熱が主となる加工が可能である.また,パルス発振(パルス幅100 ns,繰り返し周波数20 kHz)であるため,連続発振に比べ,レーザ加工時に母材への熱影響が軽減される.試験片へのレーザ照射は図1 のように走査しながら,試験片表面全域の処理が施されるようにした. 被処理面の表面性状を比較するため,走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Micro-scope)による観察を行った.形成された改質層の銀元素の濃度の測定には,エネルギー分散型X線分析装置(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を用いた.断面は集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を用いて切断し,銀元素がどのような状態で改質層に含有されているかを観察するため,透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて断面組織を分析した.被処理面の銀イオンの溶出量の測定には,高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)を用いた. 先行研究において,浸漬液の濃度が改質層に与える影響を調べるため,デフォーカスを固定し,浸漬液である硝酸銀水溶液の濃度を変え,レーザ照射を行った.0.001mol/L硝酸銀水溶液で加工したSEMの観察結果を図2に示す.同図より,被処理面に白い粒子の塊が形成していることが慶應義塾大学 理工学部機械工学科 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017210) 教授 小茂鳥 潤 3.実験結果および考察 3・1 被処理面の分析 − 284 −レーザプロセッシングによる歯科インプラントシステムの高度化

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