助成研究成果報告書Vol33
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キーワード:表面改質,診断用チップ,橋渡し 2.実験方法 1.研究の目的と背景 2020年の新型コロナウイルス禍に見られたようにその場で抗原抗体反応による迅速・精密な定量検査が出来る診断用のデバイス(抗原検査・抗体検査等)の開発は、早期の実用化が望まれている。これまで普及している迅速検査は妊娠検査薬やインフルエンザ検査薬等で見られるように、セルロース膜上に判定ラインが表示されて陽性か陰性かを判読するものであり、簡便ではあるものの精度が低いという問題があった。これに対してより精密な定量検査法として、実験室等で専任のスタッフがマイクロプレート等を用いて酵素免疫抗体(EIA)法による検査を行う方法があるが、煩雑で時間がかかる。そのため最近ではこれら実験室で行う測定を一枚のガラス又はプラスチック上で実現する、マイクロ流体デバイスという技術が注目されている。基板上に作製された数µm~数百µm幅程度の流路空間で微量検体の分析をその場で行うことを目指した技術である。 マイクロ流路は、流路体積に対する比表面積が大きいため、予め流路表面に固相化された分子の反応は、流路内を流れる分子自身の拡散によって反応時間が決まる。つまり流路内を流れる分子は、反応物質が固相化された流路表面との接触面積が大きいほど短時間に反応が完結するため、マイクロ流路空間が小さくなると迅速に反応が終了する。抗原抗体反応においてもマイクロ流路空間内での反応速度は流路内を流れる分子の拡散が律速になるため、この拡散時間は拡散距離の2乗に比例する。したがってマイクロ流路の空間がより微小化されるに従って理論上は検査に要する時間が短くなる。 しかし課題はマイクロ流路のような微小空間では層流下で反応が進行していくため、抗体固相化界面は精密な反応制御を行う必要がある。マイクロ空間で支配的な物理量として界面張力と固体壁面への付着性が強く作用することから、流路壁面に固相化された抗体分子の分子活性が異なる場合、流路毎のシグナルのバラつきは制御できなくなる。このことは臨床現場等での製品化を目指した安定性のある診断用チップの開発を妨げる要因になる。 流路毎の抗体分子の活性を出来る限り同じにするため、流路基板として用いられるプラスチックやガラス等の流路表面に、化学的に官能基を導入して抗体分子を均一に固定化する方法がある。しかし分子自己組織化膜を利用した国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017208) 主任研究員 渕脇 雄介 生化学的な表面処理は煩雑なプロセスと、長時間(自己組織化のための静置時間)ウェットな環境下での生化学反応による分子のゆらぎなどの問題があり、チップごとの歩留まり向上に問題を生じさせるケースが多い。 これに対して我々は先の研究助成で得た要素技術として、プラスチック表面にパルスレーザーを照射することで、プラスチック表面が化学的に改質されて、抗体等の生体分子が安定して結合し易くなることを見出した(平成25年度一般研究開発助成 AF-2013210)。そこで本研究ではレーザ表面改質技術と、高価な抗体液を連続・高精度に塗布できるインクジェット印刷技術を用いて、新たな診断用チップの作製と産業界への展開を目指した製造プロセス法の検討を行った1-6)。 具体的には、異なる条件でのレーザ改質をプラスチック表面に行った後、続けて直ぐにインクジェット印刷により抗体分子の液を改質表面に塗布・印刷する。作製された診断用チップが量産製造工程に展開することが技術的に可能であることと、診断用チップから得られるデータが臨床上の分析学的妥当性を満たしているかどうかについて、既存のマイクロプレートを用いたEIA法との比較試験から評価することで検討を行った。 2・1 抗体固定化条件の検討 診断用チップは光学的な測定によって解析を行うため、安価で透明性に優れているプラスチック基板のアクリルを用いた。何も表面処理していないアクリル基板の表面には抗体液を塗布しても抗体が安定に固定化されることはないため、表面をレーザ改質する。先の研究助成でレーザ改質されたアクリル基板の局所領域には規則的な周期構造と照射エネルギーに応じた親水性のカルボニル基が賦与されることがわかっている。そのためまずはレーザ照射条件と抗体固定化量の相関について検討を行った。 レーザ照射条件は1kHzのサファイアレーザー(IFRIT 1.0W Cyber Laser Inc.、1.0 mJ / pulse、λ= 779 nm)から158 fsパルス波をマイクロ流路表面に照射することで、あらかじめ選択された領域のみを化学的に改質して親水性表面にすることを行った。最適なレーザ照射のためのパラメータの条件設定として、レーザフルエンスとスキャ− 274 − レーザ表面改質技術による次世代診断用チップの 臨床への橋渡し技術の創製

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