図1 摩擦攪拌技術の発展 図1に近年研究開発が進む摩擦攪拌技術を示す 4, 5) .摩擦攪拌接合(Friction stir welding; FSW)は近年新幹線の床材や自動車のドアのスポット接合に実用されている固相 1.研究の目的と背景 長時間を要する初期活性化処理を省略できることを見出した.しかしHPTでは試料の形状寸法(直径10 mm程度,厚さ2 mm程度以下の円板)に制約があり,数~数10 g単位の水素吸蔵合金しか製造できない.そこで本研究では,HPTと同じく材料に圧縮とねじりのひずみを与えることができ,なおかつ大面積化,スケールアップが可能な摩擦攪拌プロセス(Friction stir processing; FSP)について,Mg系合金にとどまらずTi系水素吸蔵合金の製造に適用範囲を拡大するにあたっての技術的課題を明確化し,課題解決に取り組んだ. 2.実験方法 2・1 摩擦攪拌技術を利用した水素吸蔵合金の創製 接合技術で,突起(プローブと呼ばれる)を有し高速回転する工具(ツールと呼ばれる)を2枚の板の突き合わせ部に挿入し,摩擦熱で軟化した材料を固体のまま回転工具でかき混ぜ(塑性流動させ)ながら接合方向に送ることで2枚の板を一体化する技術であり,同種材料だけでなく異種材料の接合にも用いられる.この時攪拌部では加熱,強ひずみ,急冷の作用により動的再結晶が起こり,金属組織が微細化される.この材料改質効果を1枚の板に処理するのがFSPである.異種金属間のFSWでは接合部の強度に悪影響を及ぼす脆い金属間化合物の生成を避けるため,図1(a)に示すようにプローブの端部を接合線上に沿わせてキーワード:摩擦撹拌プロセス,チタン合金,水素吸蔵合金 東日本大震災に端を発した福島第一原発事故に見舞われた日本では,地球温暖化および核廃棄物増加の問題を同時に解決しうるエネルギーシステムの開発が急務である.出力変動が大きい再生可能エネルギーを拡大させるには,エネルギー貯蔵技術の普及が必須である.大規模および年単位のシステムとしては,夏に太陽光発電で得た電気で水素を作り水素吸蔵合金に貯蔵し,冬に水素を燃料電池に供給して発電する自立型エネルギー供給システムが採用され始めている.また,燃料電池自動車向け水素貯蔵媒体として,低圧で作動する安全な水素吸蔵合金が検討されてきたが,製造コスト等の問題から高圧水素タンクに先行された.定置用,移動用を問わず,高性能な水素吸蔵合金を実用化するためには,ボールミリング等の従来のナノ組織化プロセスでは数g~数kgオーダーでしか製造できないことがボトルネックであり,水素吸蔵合金の製造技術の革新が必須である 1) . 弊所では平成26年より助成を受けた天田財団一般研究開発助成AF-2014109「摩擦攪拌プロセスによりナノ組織化されたマグネシウム合金の水素吸蔵特性」において,粗大結晶粒を有する安価なMg鋳造材に量産化が進むZrO2ナノ粒子を体積率5.3%で複合化する摩擦攪拌粉末プロセス(Friction stir powder processing; FSPP)を施し,撹拌部から削出した薄片試料は2 MPa,300 ℃で瞬時に1.5重量%の水素を吸蔵した.このとき試料の結晶粒径は670 nm,結晶子サイズは17 nmまで微細化しており,従来のボールミリング法では約2時間を要していたナノ組織が約2分で作製でき,ボールミリング(数g/数~数100h)と比較して1桁以上の生産速度向上が見込まれた.攪拌部から削り出した粉末試料は数秒で水素を吸蔵し,300℃, 2 MPaにおける水素吸蔵量は1.4質量%であった. 燃料電池自動車用の水素貯蔵媒体には軽量かつ高い水素吸蔵量を有するMg系合金が検討されてきたが,水素放出温度を100℃以下に下げることが難しいため,トヨタ自動車らが開発したTi-Cr-V合金等のTi系水素吸蔵合金が有望視されている.また,大量の水素吸蔵合金を必要とする自立型水素エネルギー供給システムには現状La-Ni-Mg系合金が採用されているが,レアメタル使用量が多く高価なため,Ti-Fe合金等の安価な水素吸蔵材料が求められる.堀田ら 2) は金属間化合物TiFeに高圧ねじり加工(High pressure torsion; HPT)を施すことでTiFeがナノ組織化し,大阪産業技術研究所 物質・材料研究部 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017034) 主任研究員 木元 慶久 − 238 −摩擦撹拌プロセスによるチタン系ナノ組織水素吸蔵合金の創製
元のページ ../index.html#240