3.実験結果 3.1 飛翔粒子速度 圧力[MPa] 圧力[MPa] 0.4~0.64 MPaの空気若しくは窒素を用い,図1のヒータにより加熱し,作動ガスの加速器に送られた.原料粒子はパウダーフィーダから,ステンレス製のラバルノズルの スロート部へ供給され,スロート部の負圧によってノズル内に引き込まれる.加速器上流で加熱・整流されたガスはこのスロート部で粒子と混合され,ノズル出口に近づくにつれ作動ガスの圧力は低下する一方,流速は加速される.原料粒子はノズル内での流れにのせることで,加速させ,基板に衝突・堆積させた. 飛翔粒子の計測には当初,高速度カメラによる計測を予定していたが,粒子の輝度が低いこと等から画像の検出ができなかったため,粒子画像流速測定法(PIV)を用いた.測定はダイオードレーザ利用高速移動粒子測定観察装置: HiWatch(Oseir製)を用いた.樹脂等の光沢のない粒子については金を数nm堆積させて計測を可能とした.速度の検出位置は基材の設置位置とし,基材衝突時の速度を測定した. 銅に対して0.5及び1.0 wt.%,PEに対して9.1 wt.%のCNTを機械混合した粉体を各作動ガスの圧力でコールドスプレー装置から投射した際の基板衝突時の粒子速度をPIV法により測定した結果を図3に示す.銅とCNTの混合粉体では,作動ガス圧の上昇に従い,粒子速度が上昇し,混合したCNTの濃度の上昇に従って粒子速度が上昇した.一方,PEとCNTの混合粉体では,PE粉体のみでの投射においては0.35 MPa以下ではノズル内でPE粒子が軟化し,流路をふさいだ為,投射できなかったが,CNTを添加した場合には0.3 MPaから投射でき,圧力と粒子の衝突速度にCNTの添加の影響が小さい事が示された.更に,同じ作動ガス圧力ではPEがCuに比べて投射速度が100 m/s程度,大きい事も示された. 一般に図2の②の領域であれば粒子は塑性変形により膜は堆積し,衝突時の粒子の塑性変形量は粒子速度が高い方が大きくなることから膜の付着効率は上がると考えられる.一方で,CuとCNTの混合粉体からの複合材料膜の堆積ではCNTの濃度上昇と共に粒子速度が図4に示す様に上昇したにも関わらず,一般的に本法での膜の堆積効率はCNTが多い程,低下している.このことからCuとCNTの混合粉体からのCuとCNTの複合材料膜の形成では図2に示したコールドスプレー法の粒子の堆積を左右する粒子速度が純金属の堆積条件と大きく異なる事が示された. 一方,PE粒子にCNTを添加しても粒子の速度に大きな変化はない.このCuへのCNT添加による粒子速度上昇はこれら粒子とノズルの摩擦による減速が生じていると考えられる.ラバルノズルに用いられるステンレス等の鉄系材料に対する各材料の摩擦係数を比較するとPEでは0.01,一方のCuでは0.46と大きな差がある7).一方,CNT等のsp2系炭素材料には固体潤滑性がある即ち,CuへのCNTの添加により元々,鉄系材料に対して摩擦係数の高いCuに固体潤滑性を有するCNTが添加される事で8),ノズル内壁との衝突による粒子速度低下が抑制されたと考えられる.一方のPE粒子は元々,その摩擦損が小さいため,CNTの添加による摩擦抑制効果が表れなかったと考えられる. 図3 銅-CNT(上),PE-CNT(下)各混合粉体投射時の 図4 銅-CNT混合粉体投射時の粒子速度のCNT濃度依存性 これらの結果からCNT等の固体潤滑性を有する機能材料を多く添加すると粒子速度を上げ,膜内へのCNT等の添加濃度の上昇を図る事が期待できるが,粒子速度の上昇と関係なく,膜の堆積自体が困難となる事が示された. 3.2 堆積効率の確認 前節の結果の通り,塑性変形の複合材料膜の堆積の阻害要因が粒子速度の低下ではない事から,次に,原料に添加するナノ材料の濃度に対する膜の堆積効率の変化を調査することで膜の堆積効率の低下の要因を調査した. 粒子速度の圧力依存性 − 225 −
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