キーワード:金型用硬質膜,密着性,レーザー衝撃波 1.研究の背景と目的 Fig. 1に本研究で援用したLaSATの概要および駆動のメカニズムを示す.LaSATではレーザーアブレーション発生のために基材背面にエネルギー吸収層(Grease)を,ま高い生産性を有するプレス加工は,様々な分野の部品製造に長年利用され,重要な基盤技術となっており,その際に使用される金型表面には耐摩耗性や高硬度といった長期信頼性が常に求められている.これら特性を付与する目的で,金型表面には硬質コーティング膜が使用されている.低摩擦係数の硬質膜は,潤滑剤を不要とするドライプレス加工や,精密なプレス成型用の金型に用いられる.しかしながら成形や塑性加工プロセスにおいては,摩擦や繰返し接触負荷が作用すること,また熱応力のサイクルによって,これらコーティング薄膜の損傷や剥離が発生することが報告され1),2),そのような材料強度問題が本材料加工の成否を握っていると言っても過言ではない.すなわち,硬質膜の剥離(界面破壊)が発生すると,機能性低下や露出した基材の損傷を引き起こす要因となる. 従って,材料加工の信頼性において硬質コーティング膜の密着強度および密着耐久性の定量的な評価が必須であるが,既存の試験手法の多くは皮膜に接触して試験を行うため,接触させる材料や接触状態の影響を受けてしまい,再現性の良い定量的な評価を行うのは容易ではない3),4).最近では,パルスレーザー誘起の弾性波を利用した非接触式の密着力評価手法が開発されている5),6).この手法はレーザー衝撃試験(Laser Shock Adhesion Test : LaSAT)と呼ばれており,レーザーアブレーションを用いて基材背面から強力な弾性波を伝播させ,皮膜と基材間の界面に引張応力を付与し剥離を発生させる.また,計測した膜表面の面外変位波形から波動伝播シミュレーションを実施し,界面に付与された応力を算出する.これにより,コーティング膜の密着強度の定量的な評価が期待できる.そこで,本研究では既存LaSAT9)を改良し,高速かつ高サイクルの繰返し負荷試験が実現できる技術開発を行うことを主目的とし,皮膜の密着強度に加えて密着耐久性を評価できるようにした.さらには,高温環境での試験も行えるような環境を整えた. 2.実験方法 2.1 Laser Shock Adhesion Test (LaSAT) 中央大学 理工学部 精密機械工学科 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017023) 教授 米津 明生 たこれを拘束するために拘束層(Glass)を設ける.本研究ではエネルギー吸収層にシリコンオイルと黒鉛粉末の混合液を,拘束層にサファイアガラスを採用した.凸レンズによって集光したNd:YAGパルスレーザー(波長1064 nm,パルス幅5 nm,レーザー径2.5 mm)は透明な拘束層を透過し,エネルギー吸収層へ到達する.この際,エネルギー吸収層の急激な体積膨張(レーザーアブレーション)により基材背面に大きな圧縮成分を持つ弾性波が励起される.この圧縮の弾性波は基材内を伝播して膜表面に到達すると,自由端反射によって反転し大きな引張成分を持つ弾性波となる.この弾性波が再び界面に到達した際,界面に強力な引張応力が付与されて剥離が発生する.このとき,皮膜表面は微小に振動するため,膜表面の面外変位波形をレーザー超音波干渉計(波長532 nm,連続発振,レーザー径100 μm)によって取得し,これを基に波動伝播シミュレーションを行うことで,界面に付与された引張応力を算出する.また,LaSATを硬質コーティング膜に適用した本研究では,剥離が発生しても皮膜は粉砕されずに残っており,膜表面からの観察で剥離を判定することはできなかった.従って,剥離の判定及び剥離発生タイミングの同定には,膜表面の面外変位波形の変化を観察するために相関係数を用いた6).これは,剥離が存在すると弾性波が界面で反射や回折をするために面外変位波形が変化し,波形の類似性が低下するという現象を利用したものである. 本研究においては,密着強度のみならず密着耐久性を評価するために繰返しレーザー衝撃試験を実現する.しかしながら,従来のLaSATでは,レーザー照射1回,すなわちレーザーアブレーション1回でエネルギー吸収層が消滅してしまい,繰返しレーザー照射試験を行うことができなかった.そこで,本研究では試験環境を改良し,ローラーポンプを用いて常にエネルギー吸収層を循環させ,迅速な充填を可能にした.これに合わせてDAQデバイスおよびLabVIEW Signal Express (National Instruments社製)を用いてトリガー信号をNd:YAGパルスレーザーに入力し,2.5秒間隔で繰返しレーザー照射試験を実現した. さらには,高温環境での試験を実現するために加熱機構を開発した.測定箇所のみ非接触で加熱できるような誘導加熱装置である.その外観写真をFig.2に示す.加熱目標温度は300度とし,回路パーツのMOS FETやトランジスタ,加熱用コイルなどを購入し,ほぼ自作で回路を組み上− 182 −繰返しパルスレーザー照射法を用いた高温環境下における 金型用硬質膜の密着耐久性評価
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