助成研究成果報告書Vol33
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キーワード:銅合金,熱処理,伸線加工 1.研究の目的と背景 (平成29年度 一般研究開発助成 AF-2017007) 電子機器の小型軽量化・高性能化のニーズにともない電子部材や素子に使用する導線の細径化が求められている.とりわけ,リードワイヤ,導電性バネ材,DVDピックアップワイヤなどでは,より高強度かつ高導電性の銅合金線材の開発が切望されている.時効硬化型Cu-Ti合金は強度,応力緩和性,疲労特性など力学特性が実用銅合金の中で極めて良好であるが,導電性が比較的低い.このため,本合金系では力学特性だけでなく,導電性を改善するための基礎的・実践的研究が盛んに行なわれている1,2). 時効硬化型Cu-Ti合金はTi含有量3.0~4.5 at.%のものが工業的に汎用されており,溶体化-時効のプロセスにより製造される.時効初期では,Cu母相(過飽和固溶体相)内で微細な準安定相β’-Cu4Ti(正方晶)が高密度に連続析出する3-5).時効中期以降では,微細β’-Cu4Tiの連続析出と競合して,粗大な板状の安定相β-Cu4Ti(斜方晶)とCu相が積層したラメラ組織が結晶粒界から不連続析出する5).時効終期では,ラメラ組織が試料全体を占有するため微細β’-Cu4Tiはみられなくなる.ここで,時効硬化型Cu-Ti合金の高強度化は微細β’-Cu4Tiの高密度分散に起因するため,Cu-Ti合金を強度重視の用途に使用するときは,微細β’-Cu4Tiが十分に分散し,ラメラ組織が発達する前の所謂「ピーク時効」条件で調整するのが常套となる.ピーク時効より過度に熱処理すると,板状β-Cu4Tiを含むラメラ組織の発達にともないCu母相中の平均固溶Ti量が低減するため導電率は向上するが,強化に有効な微細β’-Cu4Tiが低減するため著しい強度低下が起こる.このような「過時効」条件はこれまで用途開発の対象とされていなかった. 本研究では,高強度-高導電性のCu-Ti合金線材の開発を目指した.ここでは,今まで常套として利用していた高強度-低導電性のピーク時効材でなく,低強度-高導電性の過時効材を伸線加工に供したことに新規性がある.つまり,過時効Cu-Ti合金でみられるラメラ組織は,高張力鋼線や高強度Cu-Ag線の元材であるα-Fe/Fe3C共析組織およびCu/Ag共晶組織と類似する6-8).よって,フルラメラ組織を有する過時効材を伸線加工すれば効率的な硬化が起こると予想した.本報告では,種々の組成のCu-Ti合金を過時効-伸線加工プロセスに供し,合金組成が強度,導電性および組織変化に与える影響を系統的に明らかにした.得られた結果より,過時効-伸線加工プロセスによるCu-Ti合金線材の特性向上の方策,および他の銅系合金線材への適用の可能性を検討した. 東北大学 金属材料研究所 准教授 千星 聡 2.実験方法 Fig. 1に多段階時効したCu-(2.7, 3.5, 4.3) at.% Ti合金棒材の横断面組織を示す.どの試料でも板状β-Cu4Ti相(明部)とCu相(暗部)が積層したラメラ組織が全面を占有する.ラメラ組織の積層配向はランダムで,板状β-Cu4Tiの厚さは100~200 nmと大差がないが,平均ラメラ層間隔はCu-4.3 at.% Ti合金の方がCu-2.7 at.% TiおよびCu-3.5 at.% Ti合金より狭い(Fig. 1(a’)-(c’)).他のCu-(2.9~4.2) at.% Ti合金も多段階時効により同様のフルラメラ組織となることを確認した. Fig. 2に抽出分離法により測定した多段階時効棒材のCu相とβ-Cu4Ti相中それぞれのTi含有量,およびβ-Cu4Ti相の体積分率を示す.Fig. 2には,Cu-Ti二元系平衡状態図12)から天秤の法則より算出されるβ-Cu4Ti相の体積分率を点線で示す.Fig. 2では,Cu相およびβ-Cu4Ti相中のTi含有量はそれぞれ,0.37 at.%,21 at.%でほぼ一定であるが,合金のTi組成にともないβ-Cu4Ti相の体積分率は8 vol.%から20 vol.%まで単調に増加することが示される.この結果は,Cu-Ti二元系平衡状態図とよく整合する. Fig. 3に過時効Cu-3.6 at.% Ti合金の伸線加工にともなう横断面での組織変化を示す.ここで,加工度は真ひずみε(ε = ln (d0/d)2,d0,d:伸線加工前後の線材試料の直径)で表す. 分析組成がCu-(2.7, 2.9, 3.5, 3.6, 4.2, 4.3) at.% Tiとなる6種類の棒材(直径3.0 mmψ)を出発材とした.これを900 oCで10 min溶体化後に水中へ急冷した後,600 oCで3 h,550 oCで3 h,500 oCで3 h,450 oCで12 h(計21 h)の多段時効材に供した.この多段階時効条件によりCu-Ti合金ではフルラメラ組織が得られる9).溶体化後に試料表面の酸化膜層を研磨紙で除去した後,冷間でのダイス伸線加工により直径0.10 mmψまで線引きした. 伸線加工材の組織を電界放電走査型電子顕微鏡(Field emission- scanning electron microscopy: FESEM)FESEM観察には,樹脂埋めした伸線加工材の横断面をバフ研磨にて鏡面仕上げした後に40%硝酸水溶液で化学研磨したものを用いた.伸線加工材における析出物量および母相,析出物相中のTi量を抽出分離法により測定した.抽出分離法に関する詳細な手順や説明は既報に譲る10,11).伸線加工材の強度特性をビッカース硬さ試験および引張試験にて評価した.各線材の室温での体積抵抗を四端子法(電流値: 10 mA)にて測定し,導電率を算出した. 3.研究成果 3.1 伸線加工にともなう組織変化 − 113 −高強度-高導電性チタン銅合金線材の創製

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