光学特性評価のために、SEBS基板、TPU基板上に成膜された薄膜について紫外光可視光分光光度計(島津製作所, UV-2600i)を用いて評価を行った。 2.3 新規伸縮性PEDOT:PSSの導電性 図2にPEDOT:PSSに図1に示した添加物の違いによる非伸長時の導電性を示す。LiBETIを添加剤として選ぶことで、導電性を330 S/cmまで向上できることがわかった。これは先行研究で用いられていたLiTFSI[1]のときの導電率270 S/cmよりも高い値となった。LiBETIがLiTFSIよりも導電性向上できたメカニズムについて調べるために、GIWAXS計測結果を比較する(図3)。LiBETIを加えたPEDOT:PSSについて、0.8 Å-1付近でPEDOTの結晶性に起因するピークがLiTFSIを加えた系よりも大きくなっていることがわかる。 図2 PEDOT:PSSの導電率の添加物依存性。 図3 PEDOT:PSSにLiTFSIとLiBETIをそれぞれ添加した薄膜のGIWAXS測定結果。 2.4 新規伸縮性PEDOT:PSSの伸長性 図4にPEDOT:PSSに図1に示した添加物の違いによる機械特性を示す。まずHardnessを見ると、LiBETIでも先行研究のLiTFSIやIonEと同じようにPEDOT:PSSの半分以下にまで改質できていることがわかる。これは図5に示すFTIRスペクトルで1010 cm-1付近のピークが鋭くなっていることから分かるようにLiBETIがPEDOT:PSSの中のPSS同士の水素結合を弱める効果によるものである。 次に図4左のクラック歪を見ると、SEBS基板上で10%程度だったものがLiBETI添加によって30%まで改善できた。さらに、TPU基板上で同様にクラック歪を評価すると、LiBETIを添加剤に用いた系で160%程度まで大きくクラック歪を改善できることがわかった。基材を変えるだけでこのように大きく伸長性が改善できるのを示したのは本研究が初めてである。実際にTPU膜上でPEDOT:PSS膜中の高分子が延伸されているかどうかを確認するために、二色比測定[2]を行った(図6)。その結果、PEDOT:PSSにLiBETIを添加し、TPU基材上に成膜したものについて伸長に従って大きな二色比を示すことがわかった。一方でSEBS基材上に作製したものは伸長しても低い二色比を示した。 TPU基材上でLiBETIを添加したPEDOT:PSSが大きな伸長性を示したメカニズムとして、LiBETI添加したPEDOT:PSSとTPUがSEBSと比べて近しい機械特性を有することが考えられる。PEDOT:PSSにLiTFSIを加えた系のヤング率は、55 MPaと報告されている。今回用いたSEBS基板およびTPU基板のヤング率はそれぞれ5.5 MPaと30.6 MPaである。また、PEDOT:PSS、SEBS, TPUのポアソン比はそれぞれ0.35, 0.49, 0.45であった。 次に伸長をかけながら導電性を評価した結果を図7に示す。LiBETIを加えた系は、LiTFSIを用いたものよりもどの伸長歪でも大きな導電性を示していることがわかる。これは図6に示したように、LiBETIを加えた系の方が伸長によって高分子が伸長方向にしやすいことが理由と考えられる。さらにLiBETIを加えた系についてLiBETIのメタノール溶液を膜に後からスピンコートすると、導電性がさらに向上できることがわかった。これは後処理により余分なPSSが除去されたことによると考えられる。 図4 PEDOT:PSSの機械特性の添加物依存性。 - 93 -
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